アメリカ・ミネソタ州において黒人男性が白人の警察官に首を圧迫されて死亡した事件は、同国に根強く残る黒人差別を改めて浮き彫りにしました。“Black lives matter!”というスローガンはアメリカのみならず、SNSを通じて全世界で叫ばれています。今回は、アメリカにおける黒人差別の歴史において「人頭税」という租税が利用されてしまった過去を見てみましょう。

人頭税という租税

租税の類型の一つに、人頭税と呼ばれるタイプの租税があります。人頭税とは、租税の負担能力に関係なく、国民一人ひとりに一律に課す租税です。

現在の我が国においては、所得税をはじめとして、納税者の租税負担能力に応じて課税をするタイプの租税が一般的です(応能負担の原則)。もっとも、人頭税の性質を有する租税が皆無なわけではなく、例えば住民税の均等割はその性格を有するものと整理することもできるでしょう。

人頭税はシンプルな租税であるということもあってでしょうか、その歴史は古く、人類の歴史上、様々な国や地域で同税が採用されてきました。しかしながら、負担能力に関係なく一律に課す租税であることからも想像が付くように、民衆が重税に苦しんだという話も多く残されています。

例えば、我が国の歴史を見てみれば、宮古・八重山地域において1628年以前から1903年までの長きにわたり定額人頭賦課型年貢制度が存在し、非常に過酷な租税であったといわれています。人頭税の支払に窮し、人減らしが行われていたという言い伝えも残っているほどです。

黒人差別問題と人頭税

さて、近時、黒人差別に対する抗議運動(ブラック・ライブズ・マター〔Black lives matter〕)が世界的に注目されていますが、アメリカ合衆国の歴史上、人頭税は黒人差別問題にも大きな関わりを持ってきました。

南北戦争の結果、黒人奴隷制が廃止され、1870年3月、アメリカ合衆国憲法に憲法修正第15条が加わったことで黒人にも選挙権が認められたことは世界史の教科書にも載る歴史的な出来事です。

しかしながら、実際のところは、巧妙に作られた州法の制定により黒人の選挙権はその後も大きく制限されていきます。

例えば南部の州は、19世紀末から20世紀中頃まで人頭税の支払を投票資格の要件とすることで、事実上黒人の選挙権をはく奪していきました。人頭税を納めることのできない多くの貧しい黒人は、人頭税という租税を経由して、人種差別を受けていたのです。

かの有名なマーティン・ルーサー・キング・ジュニア(キング牧師、Martin Luther King, Jr.)らがこの人頭税の廃止を求めたことは、映画『グローリー/明日への行進』〔英題:Selma〕(米2014)などが取り上げていますが、その後、1964年発効の憲法修正第24条によって、初めて租税滞納を理由とする投票権はく奪が禁止されることとなり、現在に至っています。

それから50年以上が経過した今日においても依然として“Black lives matter”が叫ばれる現状には、大きな憂いを抱かざるを得ません。

また、「租税」という名の下で多くの民衆が虐げられてきた過去にも目を背けることはできないでしょう(「租税」とは何かについては、前号「ふるさと納税訴訟に見る租税の意義」を参照)。


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