4.審判所の判断

(1)法令解釈

本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」とは、その経済的実質が時間の経過に従って生ずる利子といえるものを含むが、これに限らず、資産により生ずる所得のうち資産の譲渡により生ずる所得以外のもの、すなわち、資産の運用又は保有に該当する行為がある場合に、当該行為によって生じた所得を広く含むと解するのが相当である。

他方、本件規定にいう「資産の譲渡により生ずる所得」とは、これと所得税法33条1項に規定する「資産の譲渡による所得」とを別異に解する理由が見当たらないことからすると、保有資産を移転させる一切の行為から生ずる所得をいうものと解するのが相当である。

(2)検討

FX取引における契約上の地位は、FX取引の対象とされる通貨間の為替の変動に応じて利益又は損失を生じさせ得る契約上の地位であり、本件規定にいう「資産」に該当し、FX取引における差金決済に係る所得は、請求人がこのような契約上の地位に係る権利を行使することにより生じたものであって、当該契約上の地位又は権利を他に移転したことにより生じたものではない。

したがって、差金決済に係る所得は、本件規定にいう「資産の譲渡により生ずる所得」には該当せず、「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当する。

5.解説

本件にいうFX取引は、上記1のとおり、「売買の当事者が将来の一定の時期において金融商品(略)及びその対価の授受を約する売買」であるところ、差金決済も、その性質上売買取引として見ることも不可能ではなく、請求人の主張も、その見方に沿ったものと解される。すなわち請求人は、仮にFX取引の契約上の地位が資産に該当するならば、当該契約上の地位は反対売買を行うことによって差金決済され、かかる反対売買及び差金決済は契約上の地位を移転させるものとして資産の譲渡に該当するという主張をした。

しかしながら、本件所得は、上記4(2)のとおり、FX取引における契約上の地位に係る権利を請求人が行使したことによって生じたものであり、当該権利を他に移転したことによって生じたものではない。差金決済は、そもそも、売戻し又は買戻しにより生じた差金の授受によって決済が行われるものであり、取引当事者間で対象物(建玉)の受渡しを行う意図はないのであるから、対象物そのものに財産性は観念し得ず、したがって本件所得を譲渡による所得と解すことはできない。

なお、本件では、「資産の運用」の解釈について、請求人が、「時間の経過に従ってだんだん発生してくる果実としての所得」として限定的に解しているのに対し、審判所は、上記4(1)のとおり、「その経済的価値が時間の経過に従って生じる利子を含むが、これに限らず、資産より生ずる所得のうち、資産の譲渡による生ずる所得以外のもの、すなわち、資産の運用・保有に該当する行為がある場合に、当該行為によって生じた所得を広く含む」という解釈を示している。


[1] 平成26年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。


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