これから注目されるのが2023年度税制改正です。各府省庁からの要望が8月下旬、財務省と総務省に提出されました。今回は、政府税制調査会の資料から、今年12月発表の税制改正の内容を占ってみます。

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税制改正の流れ

税制改正は、次の順で行われます。

8月末まで:税制改正の要望を提出

多くの業界団体からの要望が各府省庁に集められます。

各府省庁は税制改正要望を取りまとめ、財務省(国税)と総務省(地方税)に提出します。

9月~10月:政府税制調査会の議論

政府税制調査会(以下「政府税調」)は、内閣総理大臣の諮問に応じ、各界の代表者や学識経験者から構成されます。

税制に関する基本的事項の調査・議論が行われ、税制改正に影響します。

11月~12月:与党税制調査会で議論

与党税制調査会は、与党の政務決定を行う政務調査会の1つです。

税制改正に関するヒアリングと審議を行い、最終処理案という形で大綱に近づけます。

12月中旬:税制改正大綱の閣議決定・与党による発表

税制改正大綱がまとめられ閣議で決定された後、与党が発表します。

この後、財務省と総務省が発表された大綱に基づき、改正法案を作成します。

1月~3月頃:税制改正法律案を国会に提出

政府から提出された税制改正法案は、衆議院・参議院それぞれの委員会で審議と採択が行われます。

3月:税制改正法案の可決

3月下旬までに国会で可決・成立されます。

成立した税制改正関連法は原則、4月1日からの施行です。ただし例外もあります。

政府税制調査会は何に注目しているか

注目したいのが政府税調での議論です。

主要なトピックであればあるほど、改正に盛り込まれる可能性が高くなります。

今年度の資料では、次の5つが注目されていた様子が伺えます。

働き方の多様化

今年度、もっとも注目されたテーマは「働き方」でした。

リモートワークを含めた柔軟な働き方を中心にヒアリングが行われました。

特にデジタル化や兼業・副業の拡大に関心が集まったようです。

【引用元】[総10-1] 外部有識者ヒアリング資料(大内伸哉 神戸大学大学院法学研究科教授)

【引用元】[総10-3] 外部有識者ヒアリング資料(平田麻莉 一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表理事)

また、退職金の意味の変化も外部有識者から報告されました。

【引用元】[総11-1]外部有識者ヒアリング資料(奥本英宏 リクルートワークス研究所所長)

教育・子育て支援

経済格差による教育格差を背景に、より充実した子育てや教育支援が課題となっています。

同時に、この財源をどこから捻出するのかもテーマとなっている模様です。

【引用元】[総11-3]外部有識者ヒアリング資料(山口慎太郎 東京大学大学院経済学研究科教授)

中立的な税制のあり方

経済社会の変化に伴い、課税のありようが問われています。

税の三原則には「公平・中立・簡素」がありますが、特にテーマとなっているのが「中立」です。

相続税と贈与税の一体課税で「中立」という言葉が用いられましたが、消費税も経済活動を阻害しない点で中立だと見られています。

【引用元】[総16-1]有識者ヒアリング資料(土居丈朗 慶應義塾大学経済学部教授)

また、「1億円の壁」と呼ばれる合計所得金額1億円超の富裕層の税負担の軽さも指摘されています。

【引用元】[総17-1]財務省説明資料(個人所得課税)

デジタル化

オンラインを通じてモノやサービスが行き来するようになった今、「どの国でどう課税するか」は重要な課題です。

【引用元】[総14-1]外部有識者ヒアリング資料(太田洋 西村あさひ法律事務所弁護士)

ただし、課税の強化だけが注目されているのではありません。

「Web3の技術革新をうながすべく、複雑かつ厳格な課税を見直すべきではないか」という意見もあります。

【引用元】[総9-1]外部有識者ヒアリング資料(孫泰蔵 Mistletoe 創業者)

岸田政権の方向性

無視できないのが「現政権の方向性」です。

岸田内閣は「資産所得倍増プラン」の策定に注力しています。

【引用元】[総17-1]財務省説明資料(個人所得課税)