確定申告書の押印と花押

上記のとおり、花押は自筆証書遺言の押印要件を満たさないとされたわけですが、確定申告書に花押を書いて提出した場合、その確定申告書は有効なのでしょうか。

国税通則法124条《書類提出者の氏名、住所及び番号の記載等》2項は、「税務書類には、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める者が押印しなければならない。」として、

一 当該税務書類を提出する者が法人である場合 当該法人の代表者
二 納税管理人又は代理人によつて当該税務書類を提出する場合 当該納税管理人又は代理人
三 不服申立人が総代を通じて当該税務書類を提出する場合 当該総代
四 前三号に掲げる場合以外の場合 当該税務書類を提出する者
と定められています。

この点、審査請求人(請求人)が法定申告期限内に相続税の申告書を提出したものの、押印を失念したという審査請求事案があります。この事案において、税務署長は、この申告書が国税通則法の規定を充足しておらず、審査請求人の申告の意思を認めることができないため、申告書は有効なものと認められず、期限内申告にはならないとして無申告加算税の賦課決定処分を行いました。

これに対し、国税不服審判所平成27年4月1日裁決(裁決事例集99号)は、要旨、「申告書の効力については、押印がない場合であっても、単なる押印漏れであることも考えられるので、納税申告書として他の要件を具備している限り、押印がないことのみをもってその効力がないものとはいえない」とし、原処分を取り消しました。

同裁決は「通則法第124条は、納税申告書には氏名を記載し、押印しなければならない旨規定している。また、…相続税法第27条及び相続税法施行令第7条は、相続により財産を取得した二人以上の者が相続税の申告書を共同して提出する場合には、共同申告書(共同して提出する申告書…)に各申告者が連署すべきことを規定しているが、納税申告書である限り、この場合においても、各申告者は、申告書に押印する必要がある。
しかし、共同申告書に署名した者又は記名された者に、通則法第124条第2項に規定する押印がない場合においても、単なる押印漏れであることも考えられるので、納税申告書としての他の要件を具備している限り、押印がないことのみをもって納税申告書としての効力がないものとはいえず、このような場合には、共同申告書が提出された時点において、当該共同申告書が署名した者又は記名された者の申告の意思に基づいて提出されたものと認められるか否かによって、申告書の効力を判断すべきである。」としています。

このように考えると、押印が花押であったとしても、そのことのみをもって、確定申告書の効力が否定されるということにはなりそうもありません。

ちなみに、法人税法151条《代表者等の自署押印》2頁においては、「法人税申告書等には、前項の代表者のほか、法人の役員及び職員のうちその法人税申告書等の作成の時においてその法人の経理に関する事務の上席の責任者である者が自署し、自己の印を押さなければならない。」などと定められていますが、他方で同条4項には、「前各項の規定による自署及び押印の有無は、法人税申告書の提出による申告の効力に影響を及ぼすものと解してはならない。」とされています。

押印の有無が申告の効力に影響を及ぼさないことを踏まえれば、裏を返せば、花押の記載のある確定申告書の提出も理論的には認められることになりそうです。

なお、前述の最高裁平成28年判決は、あくまでも花押の記載のある「遺言書」の効力が争われた事件ですから、確定申告書の自書押印とは異なり、民法の定める形式要件が厳密に求められたものであるといえるでしょう。