2019年度を目途に、相続税の申告がオンライン化される見通しだ。政府の「デジタル・ガバメント実行計画」に盛り込まれ、計画では2019年10月から相続税でe-Tax(電子申告システム)を利用可能にする。税理士にとっては、利便性が高まることで相続ビジネスにさらに拍車がかかることも予想されるが、一方で、申告業務の低価格化を懸念する声も聞かれる。

政府はさきごろ、eガバメント閣僚会議で「デジタルガバメント実行計画」を決定したが、税界として注目されているのが、相続税に係る行政手続きのデジタル化とオンライン申告の実現だ。
なぜ、こうした改革を進めていくことになったのかというと、日本国内において年間の死亡者数が増加傾向にある一方で、各種の相続手続が相続人だけでなく行政にとっても無視できないコストになっているため。
計画では、死亡・相続時の行政手続について、オンラインで一括処理を可能にすることが示されており、(1)相続財産を把握できるように、必要となる手続を容易にするとともに、手続き先を確認できるようにする、(2)行政機関同士の連携などによる手続きの効率化とデジタル化、(3)オンラインでどこからでも手続きができるワンストップ化する、ことをあげ、相続人や行政機関、民間事業者の負担軽減を図るよう目標を定めている。
現在、一般的に相続が発生した場合、死亡届、年金手続、不動産の名義変更、相続税の申告などの行政手続が必要。それも書面での作成となっている。さらに、それぞれの提出先も地方公共団体、年金事務所、法務局、税務署とバラバラだ。被相続人の預金等についても、金融機関に繰り返し戸籍等を提出する必要があり、手間がかかる。
ということで、2019年度から相続税のオンライン化、ワンストップ化を図っていこうという政府の狙いなわけだが、税の専門家の税理士からは歓迎の声は多い。税理士の場合、相続人に代わり代理申告を行うことがあるが、この業務が簡素化されると相続税の申告業務が楽になるからだ。ただ一方で、「相続税の申告業務は今でも低価格化が進んでおり、手間が掛からなくなることで、さらにその傾向が強くなる」と指摘する税理士もいる。
政府は、具体的な取り組みとして、今年3月末までに死亡・相続手続に関する現状分析と課題の整理を済ませ、2018年度中にワンストップサービスの実現に向けた具体的な方策の取りまとめと省庁間の調整を行い、2019年度には可能なものから順次サービスを開始していくとしている。
また、行政間の情報連携を進め、今年6月末までには、自治体から税務署に送られる死亡通知のデジタル化に向けた方針を決定する。そして、2019年10月を目途に、相続税のe-Taxを開始する予定だ。とはいうものの、しばらくの間は、e-Taxですべて相続税の申告業務が完了するというわけにもいかない。おそらく、添付書類などは改めて別途税務署に提出することになることが予想される。
高齢化が進む中、“相続”は社会的な大きな問題ということは間違いない。納税者にとっては、相続税の申告手続きが楽になるのは諸手を挙げて歓迎だが、まだ税理士などの専門家の手を借りないと適正申告ができないくらい煩雑だ。税界における相続税マーケットは、依然競争激化の状況が続きそうだ。