公認会計士・監査委員会は7月、「令和2年版モニタリングレポート」を発表しました。これは、監査法人や公認会計士の動向について、モニタリング活動などを踏まえてまとめているもので、毎年発表されています。本レポートを紐解くことで、監査業界の現状と未来について見えてくるものがあります。
監査法人数は純増に
令和2年版モニタリングレポート(以下レポート)を紐解いてみると、監査法人数は2019年3月末時点で236だったものが2020年3月末時点で246と、10法人の純増になっていることが分かります。過去5年を振り返ると、2016年の214から32法人も増えています。
増えているのは中小の監査事務所で、準大手監査法人については規模拡大のための合併を繰り返しており、むしろ数の上では減少傾向にあります。
準大手監査法人のうち、機会があれば合併したいと答えた監査法人は過半数に上ったと報告されています。
監査法人の異動、大手から中小への流れは変わらず
2020年6月期は、ここ5年間で2番目に異動数が多い年となりました。1番目に多かった2019年6月期は、太陽と優成という準大手監査法人2法人が合併したことによる影響が大きく、合併を除いた会計監査人の異動数は過去5年間でトップとなります。
会計監査人の異動の内訳を見ると、大手から準大手や中小に変更するトレンドは今年も続いています。2020年6月期の大手監査法人のクライアント数は、58社減に。その分が準大手や中小に流れています。
注目されるのが、異動の理由です。
かつて会計監査人の異動の際に付される理由は、「任期満了」とするのが“通例”でした。それが、東京証券取引所の改訂版「会社情報適時開示ガイドブック」において、交代理由の開示を求めたことの影響により、今まで異動理由のトップだった「任期満了」を理由にした会計監査人の異動はゼロに。
その代わり、2019事務年度に大手監査法人が把握している前任監査人から把握した会計監査人の異動理由のトップに躍り出たのは、「監査報酬(48件)」となります。続いて、「継続監査期間(33件)」、「会計監査人からの辞任等(8件)」、「親会社等の監査人の統一(6件)」と続き、やはり高額な監査報酬が異動理由であることがはっきり裏付けされる結果となりました。
一方、準大手監査法人・中小規模監査事務所の場合、理由は「会計監査人からの辞任等(14件)」、「監査報酬(7件)」、「グローバルな監査体制(2件)」、「親会社等の監査人の統一(2件)」となります。準大手や中小監査法人ほど、業務内容の変化、業績の悪化、株主の異動、経理体制の脆弱さなど、監査リスクが高いクライアントが多いことが見て取れます。
監査報酬見直しの動きへ
監査人の監査報酬は、「タイムチャージ方式」(大手や準大手~中小で採用)および「基本報酬+執務報酬方式」(準大手~中小で採用)といった手法があることが、「監査報酬算定のためのガイドライン」(日本公認会計士協会)で例示されています。
しかし、監査にITを用いるやり方が一般化している今、「研究開発費の増加が見込まれることから、新たな監査報酬の算出方法を検討する動きも一部においてみられる」(レポート)という観測があるようです。
また、上記で見たように会計監査人の異動理由のトップに「監査報酬」があるように、2013年から増加傾向にある高額な監査報酬を嫌っての異動が増えており、規模が小さい監査法人への異動があるとそのあとは監査報酬が減ることが一般的になっています。
公認会計士の働き方、監査法人の社員評価と人員変化
最近、監査法人の社員の評価について、「監査品質」を重視するようになってきた点について触れられています。
大手監査法人の実際の社員の評価例によると、「業務評価規程」に基づき、チーム管理、業務開発等を含めた項目ごとの評価を行っており、特に、「品質管理」「倫理・コンプライアンス」を重視していることが示されています。
この評価結果は、多くの場合で報酬に反映させ、さらにクライアントを決める際に使われることもあると報告されています。
大手監査法人の人員数は2018年度に一度減り、2019年度に増加に転じています。
特徴的なのが、大手および中堅監査法人では公認会計士の人数は横ばいなのに対してそれ以外の人員が増えていることです。これは、「被監査会社の IT 化の進展への対応や業務の効率化、人手不足の緩和や公認会計士を判断業務へより注力させることなどを目的に、公認会計士以外の人員を増加させている」(レポート)ということで、ここからIT化の進展とより高度な業務への公認会計士の注力という近年のトレンドが分かります。
働き方改革については、具体的に、
- ・土日や夜間のネットワークへのアクセス制限
- ・監査アシスタントの増員
- ・ITの活用による一人当たり労働時間の短縮 など
といった取り組みが取り上げられています。
コロナの影響で在宅化が進むか
最近の動向として、やはり今回の新型コロナウイルスの影響が挙げられています。
時期が多くの法人の決算期だっただけに、
- ・新型コロナ感染症に関連する留意事項(日本公認会計士協会)
- ・有価証券報告書等の提出期限延長の取扱い(金融庁)
- ・定時株主総会の日程に関する対応(法務省等)
- ・会計上の見積りに係る新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(企業会計基準委員会)
- ・新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会(金融庁)
といった数多くの指針の発表や協議会の発足が行われる事態となりました。
監査法人などにおいても、
- ・被監査会社が契約書や請求書など必要書類を電子データ化して監査事務所に提供したり、それを支援するため、監査事務所が開発した多機能端末を被監査会社に貸与する(大手監査法人)
- ・緊急事態宣言の発令中は、監査事務所の構成員を原則として在宅勤務とする
- ・監査手続に関しては、上記の協会が公表した留意事項などに基づき、代替的な手続を実施する
といった対処法を取られたことが報告されています。
また新型コロナは公認会計士の働き方への影響も大きく、「大手監査法人・準大手監査法人は、緊急事態宣言解除後も一定程度の在宅勤務を継続するとしており、IT を 活用した被監査会社等に赴かない監査業務の実施(いわゆる「リモート監査」)をはじめとする監査業務の IT 化が一層進展することが想定される」とレポートでは言及しています。
※図表の出典は全て「令和2年版モニタリングレポート」
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