主人公である26歳若手公認会計士が監査法人を辞めた勢いで独立し、せっかく安定したのに再就職して自分の居場所をだんだんと見つけていくフィクションライフスタイル。この物語に登場する人物や団体、事象はフィクションです。

前章『4.食いつなげる仕事、いや食いつなげた仕事というべきか』

(関連記事)

・第1章 俺、監査法人辞めるわ

・第2章① 監査法人辞めた後の選択肢はなんだ~①そもそも俺は何がしたい~

・第2章② 監査法人辞めた後の選択肢はなんだ~②公認会計士としてキャリアを積んできた俺の強みはなんだ~

・第2章③ 監査法人辞めた後の選択肢はなんだ~③自己分析した状況を踏まえて選択肢をよく考えてみる~

・第3章 勢いでなんか独立してみた

・第4章 食いつなげる仕事、いや食いつなげた仕事というべきか

 

なんとかフリーランスとして安定して食っていける動き方が実践できるようになっていた。当初やらないでおこうと思っていた税務を熱烈なオファーのおかげで受託する覚悟を決められたからだ。税務はあくまで業務の性質としてやりたいものではないが、頼ってもらえる、喜んでもらえる、自分を支えてくれている周りの期待に応えられる、そういった意味で取り組む意義や必要性を感じたのだ。。ニーズも高いため生活も安定しやすく心にもゆとりが出た。

本章『5.重宝される俺。舞い込む奇跡。』

税務を始めてから発注しやすい業務メニューができため、仕事の依頼先としてとっつきやすくなったようで、税務以外についても仕事として依頼してきてくれる奴や、案件の紹介をしてくれる奴が増えてきた。とくに成長しているベンチャーがバックオフィス全体のよろず相談を持って来てくれる。みんな後回しにしてきてしまった管理の仕事を誰かに頼みたいらしい。税理士としても稼働する覚悟を決めたところだが、あらためてフリーランス公認会計士の需要は相当に高そうだと感じている。

ベンチャーのサポートは会計に留まらない。やったこともない採用活動や労務、法務チェック、場合によっては総務的な手配などあらゆるバックオフィスの業務すべてが求められる。

餅は餅屋であるように、どこが何屋かをよく知っている者としては、本来的にはあれは社会保険労務士、あれは本当は弁護士に頼るべきと思うところがある。しかし、ベンチャーの会社ではそういった前さばきは出来ないのだ。全く専門外だったとしても、公認会計士というだけで、なんか解決してくれそうな自分にとりあえず相談してみようとなるわけだ。

頼ってもらえること自体は嫌いではない。本来は作業系の業務は好まないのだが、ベンチャーではとてもありがたがってくれるからだ。

 

上場企業など大きな会社は管理業務を対応すると当たり前の作業を当然にやったみたいな塩対応なことが多い。

専門家であれば一瞬で解決できるタスクであったとしても、ベンチャーとしては意味のわからない難問を、無理矢理よくわからないまま行政などに言われるとおりに、とりあえずなんとか暗中模索して処理していたようだった。

そんなところに、自分が来て、どうやったらどのくらいで終わるのか、ゴールを明確にしてもらえ、相談したり頼ったりできる人がきたという安心感があるからありがたがってくれるようだ。

もちろん他の士業が解決すべきことも多いため、そういうときは他の士業などの専門家を紹介したり、他の士業と連携がとれるようにサポートしたりすることが自分の役割だ。たくさん飲みニケーションをとってきてツテを増やしてきたことが活きている。

飲みニケーションはフリーランスにとって、単に業務を発注してくれる人(売上先)を探す場ではなく、こちらが発注先や紹介をするうえで専門性や人間性などを把握して、自分の武器となってくれる人脈を形成する価値もあったようだ。

たまたまこういった紹介などの機会が必要になる前に飲みニケーションをしてこれていたが、そういったことをしてこずに、自分の専門分野だけしか課題の解決に貢献できないようなら今のように重宝されることはなかっただろうなと強く感じた。バックオフィスのよろず屋として頼りになることがフリーランスとして人気者になる大切な要素のようだ。

自分の専門分野以外への対応と言うと専門じゃないのだから難しそうに思われることもあるが意外とそうではない。意外と簡単だ。事実を集めて課題を整理し、クライアントの事業計画や在りたい状況も合わせたうえで、適切な専門家につなぐことだ。ここでクオリティを保つためのポイントがある。専門家とはいえ、餅は餅屋ということだ。たとえば医者で言えば、皮膚科が専門の先生に骨が折れたと言っても整形外科にいってくれと言われるという事だ。応急処置はしてもらえるだろうが、たらい回しや無理をさせてしまうことがあるのだ。クライアントと専門家の双方どちらにとってもハッピーではない。資格だけではなく、どんな業務が得意か、実績があるのか、どんな規模ややり取りの仕方が得意か等のどんな餅屋かを把握しておくことまで必要だという事だ。

そんな窓口対応ができるという信頼が出来てくると、クライアントからは「困ったときの〇〇さん」となんでもマルっと要望が飛んでくる。だんだんバックオフィス業務以外の相談すら誰かイイ人いないかと相談をもらえるようにすらなってくるのだ。ひたすら順番に状況を整理して頼れる人を当たって課題をつぶしていく。もちろん社内体制も不足していたりするので目の前のタスクだけではなく、組織構築を社内で提案しながら進めていく。

もちろん感謝してもらえて業務ができるありがたさだけでなく、デメリットもある。一番厄介なのは公認会計士として作業や組織構築の必要性を切に感じていても、社長をはじめ、社内の他のメンバーの管理業務のリテラシーが低すぎて、必要性の緊急度や重要性、影響度合いといったリスク認識がまったく追いつかないことがあるということだ。

監査法人では監査人である公認会計士が必要と言えば絶対なものとして、クライアントは対応をしてくれた。しかし、たとえロジックが整っていても、ベンチャーでは通らないこともあるのだ。極端な話、「なんとなく理解はできるけどメンドクサイから嫌だ」とまで言われることさえある始末だ。

また、頼り方を間違えられることもある。自分では対応できないことでも「ほかでもないアナタにやってほしいんだ」と駄々をこねられることだ。下手をしたら手を抜いているとさえ思われる。「出来ないんだ!」、「専門が違うんだ!」、「おれにやらしちゃいけないことなんだ!」声を大にしたくなるがグッとこらえて段取りをして上手く解決する方向へ誘導する。

しかし、そんなことにももはや驚かなくなった。慣れとは恐ろしいものだ。フリーランスになって一番身についた力は、正しい云々ではなく、なぜか簡単に前に進まない時でもなんとか必ず前に進めるタフさや器用さだろう。これはテクニカルなスキルではない、コミュニケーションのスキルですらない。ひたすら忍耐と粘り強さだ。

そんなこんな四方八方でよろず屋をしていた。気づけば3つのベンチャーで社外CFOとして働くことになり、公認会計士としてやりがいを感じる業務も安定して得られるようになった。

CFOは社外とは言え大層な肩書きだ。自分だけのスキルで得られた肩書きではない。飲みニケーションで培った連携してくれる仲間達がいてくれるからこそ成しえている。信頼で重宝されるようになったわけだ。

飲みニケーションなんて誰と出会えるかわからないし、繋がっていられるかもわからない不安定なものだ。ここまで成長できたのは奇跡の連続なわけだ。

 


次章『6.独立して安定しているが感じる焦燥感』は近日公開!

【youtuberとしても活動中:お金のカラクリ侍

 


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