主人公である26歳若手公認会計士が監査法人を辞めた勢いで独立し、せっかく安定したのに再就職して自分の居場所をだんだんと見つけていくフィクションライフスタイル。この物語に登場する人物や団体、事象はフィクションです。

前章『6.独立して安定しているが感じる焦燥感』

(関連記事)

・第1章 俺、監査法人辞めるわ

・第2章① 監査法人辞めた後の選択肢はなんだ~①そもそも俺は何がしたい~

・第2章② 監査法人辞めた後の選択肢はなんだ~②公認会計士としてキャリアを積んできた俺の強みはなんだ~

・第2章③ 監査法人辞めた後の選択肢はなんだ~③自己分析した状況を踏まえて選択肢をよく考えてみる~

・第3章 勢いでなんか独立してみた

・第4章 食いつなげる仕事、いや食いつなげた仕事というべきか

・第5章 重宝される俺。舞い込む奇跡

・第6章 独立して安定しているが感じる焦燥感

 

飛ぶ鳥を落とす勢いのフリーランス公認会計士として活躍が安定し、プライベートも衣・食・住のクオリティが上がってモテるようにもなった。しかし、何かが満たされたないどころか焦燥感が日に日に強くなっていた。ある日サポートをしていた友人の社長がIPOに成功して気付いた。自分は当事者であるが外の人でしかないのだと。本当のやりがいはビジネス傭兵ではなく、本物の当事者にならないといけないのだと気づいた。

本章『7.ポジティブなベンチャーへの再就職』

焦燥感の正体に気付くことができたが、さあどうしたものか。すでにたくさんのクライアントがいてチヤホヤもされている。条件や名声で考えても申し分ない。まさに理想的な状態だ。

 

焦燥感を解消して真のやりがいを感じるためには、これらを全部捨てなければならない。いきなり仕事を断って迷惑をかけることもできない。調整にも時間がかかる。短く見積もって1年だろう。そんな風にすべてを投げ出して手間暇をかけて、余計な気苦労もしてチャレンジするべきことだろうか。

正直、企業の中でIPOの準備をしている公認会計士の仲間は相当大変な泥臭い作業を自ら好んでやっており、稼ぐという観点だけで考えたら非効率でマニアックな人種だと思っていたし、今もそう思っている。

 

企業が上場するときは華々しいが、管理部門の責任者でもあるCFOなどの公認会計士は、現場の方が大層嫌がる“いわゆる無駄な資料”をたくさん用意しないといけないからだ。もちろん本来は無駄ではない、すべて必要な資料だ。しかし上場していなければ用意しない資料も多々ある。そんな究極の事務作業を延々とするということなのだ。

 

現場は嫌がるし、理解が簡単ではないから時にはこうも言われる「理屈はわかりましたがイヤです。もっとやりたいことがあって僕はこの仕事をしています。」ごもっともである。しかしそれをなんとか宥めて対応してもらう。こういった単に資料を作るだけでなく、体制を作る大変さがたくさんあるのだ。

 

やはりIPOの責任者として働くことはマニアックで、ビジネス効率で言えばよくはないのだ。フリーランス公認会計士で傭兵的に働く方がよっぽど楽で儲かるわけである。

それでも彼らには目の奥に熱い光を感じる。ゴールが1点なのだ。IPOを成功させる。そのために必要ならどんなに辛かろうが、稼働の割に給料が安かろうが文句も言わずに黙々と取り組んでいる。もはやアスリートの意気込みだ。

 

人生で一度はチャレンジしないとずっと焦燥感を抱えたまま生きることになりそうだ。このアスリートのようなチャレンジは一生ではない。短くて2年、長くても8年ほどだろう。終わりが失敗になる可能性も多々あるが、それはそれでやりきったやりがいがあるだろう。やはり俺はIPOに中の人としてチャレンジをするべきだろう。

 

知り合いのベンチャーの会社からIPOの責任者として、すなわち内部CFOとして声もかかっているが、今回は知り合いの会社ではないところでチャレンジしようと思った。知り合いの会社は既に傭兵であるフリーランス公認会計士としての外の人の印象が強いためだ。このため多くの求人情報を扱っている人材紹介会社を活用して就職活動を行うことにした。

公認会計士の転職には専門の人材紹介会社がいくつかある。医者が外科医、皮膚科といろいろ専門がわかれるように、公認会計士も専門職と言っても様々であり、求人も同様に多様であるため、適切なマッチングをしてもらう価値があるからだ。

 

いくつかの人材紹介会社に登録してみたが求人の内容はそんなに変わらなかった。専門の人材紹介会社数が少ないため特別な求人というのは多くないようだ。人材紹介会社から提示されていない求人も「こういうところのもあるか」と聞くと「ある」と言う具合だ。

 

対応する担当者のクオリティはかなり異なる印象だ。求人票に書いてあることしか言えない人から求人先の会社の雰囲気まで語れる担当者、こちらの要望を鵜呑みにするのではなく、ちゃんと本来の俺が求めている志向性を理解して将来までを見据えてアドバイスをしてくれる方、しっくりする求人がなくても探してきてくれる方。

 

IPOも直前期、直前前期など様々なステージがわかれる。直前期とは上場する予定の1年前、直前前期とは2年前といった意味合いだ。いわゆるIPOまでカウントダウンの会社だ。上場直前であるほど課題や求められるニーズが明確だ。場合によっては、仕組みの構築は大方終わっており、後は運用だけということもある。最後に上場時に責任者のポジションとして相応しい資格者が必要だから雇うなんて採用もあるくらいだ。

俺が入りたい会社としては、売上と利益が堅調で社会性のあるビジネスをしており、ビジネスのフロントサイドについて安心感がある会社だ。フロントサイドがしっかりしていないといくら自分がバックオフィスを整えて頑張っても上場できないからだ。内部CFOとしてバックオフィスの組織や制度の構築を安心してしっかりとやることができる会社を志望した。もっと言えばフロントサイドの安心感はあるが、IPO水準の管理体制がほとんど何も整備されていない会社でもある。組織や制度を整えていく醍醐味のある会社だ。

 

IPO市場における公認会計士は引く手あまただ。3~5年の一般的な監査経験しかないような若手でも人気なくらいだ。おかげで書類審査はすぐに通る。面談もチェックされるという感覚というよりも相互に認識のズレがないか働き方や条件をすり合わせする感じすらある。

最先端のビジネスではあるが堅実な社長と出会った。顔を見た瞬間にビビッときた。人脈を作り散々傭兵をしてきたせいか人の見る目は養われている自信がある。丁寧に働き方や条件をすり合わせた。正式なスタートの前に社長とサシでも飲みに行こうという事になった。これまでのキャリアの悩みとIPOにチャレンジしたい思い、社長の人柄に惹かれてやる気があることを素直に伝えた。「是非よろしく頼む。」と深い口調で言って頂けた。さっそく来週から働きにいくことになった。傭兵時代の引継ぎしきれていないところも2カ月を目途に整理することで合意を頂けた。スタートしやすい配慮を頂けてありがたい。

 

迷いに迷って、ようやくたどり着いた俺の新しいあるべきキャリアのチャレンジ。

ポジティブなベンチャーで再就職というリスタートになった。

 


次章『8.中の人ならではの苦労と鐘を鳴らすまで』は近日公開!

【youtuberとしても活動中:お金のカラクリ侍

 


バナーをクリックすると㈱レックスアドバイザーズ(KaikeiZine運営会社)のサイトに飛びます

最新記事はKaikeiZine公式SNSで随時お知らせします。

 

◆KaikeiZineメルマガのご購読(無料)はこちらから!
おすすめ記事やセミナー情報などお届けします

メルマガを購読する