買手が支払いに際し(勝手に?)控除した金額は振込手数料?それとも売上値引?

我が国の実務において、売掛金が入金される際に一定金額が控除されることがあり、一般的には借方差額として振込手数料か、又は売上値引として処理されることが多いかと思われます。

前者は、買手が振込手数料等[6]を売手に代わり立替払したと判断する場合で、上記の立替金の取扱いに準じ、買手側から銀行振込の際の利用明細票等と立替金精算書を入手することになります[7]

売手はさらに、「課税仕入れに相手方の名称」(すなわち、銀行振込手数料であれば、その銀行名)など、帳簿記載に必要な情報を入手しなければなりません。

一方、後者は、売手が控除額を売上値引と判断する場合で、売上げに係る対価の返還等に該当するため、売手は適格返還請求書を交付しなければなりません。

しかし、適格請求書発行の都度、適格返還請求書を交付するのは極めて煩雑なので、適格返還請求書については、記載事項をメールで送付することや、一定の期間(月単位、年単位)をまとめて交付することも認められます[8]

なお、買手による一定金額の控除に際し、振込手数料等で処理するのがいいか、あるいは売上値引として処理すべきかは、実務家の間でも判断が分かれる点かと思われます。

特に、先方からそういわれたわけでもないのに勝手に値引くのは如何か、という考えもあろうかとは思われますが、仮に簡易課税を選択している場合や、仕入税額控除の際の課税売上割合の計算の中で、売上割引で処理した方が有利となる場合もあります[9]

ところで、上記の取扱いは、取引当事者が契約等で事前に一定金額の控除を合意している場合であり、問題は、事前に予期されていない売手負担の控除額が発生してしまったときの対応です。

この点につき、下請法は、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに下請代金の額を減ずることを禁止(同4①三)しており、「下請代金の額を減ずること」には、金融機関口座へ振り込む際の手数料が含まれますので、この問題は税法以前の問題といえます[10]

ゆえに、適格請求書制度導入を契機に、取引先と別途協議して、過去の取引上の慣行を見直すといった対応が必要になると思われますが、相手の理解を得るのも容易ではないといった事態も想定されます。

そのような場合には、しょせん少額の借方差額に過ぎないと割り切り、費用対効果の観点から、上記の処理を行わず、仕入税額控除の対象となる課税仕入れとしない、というのも1つの考え方[11]だと思われます。


[6] 買手が控除する金額には、銀行の振込手数料のほか、運送料や倉庫料などの(先方から見て)仕入諸掛りのようなものもあり得る。税務通信No.3715『財務省担当官に聞く! インボイス制度の疑問点』<第3回>(令和4年8月8日)44頁には、「これを全部ひっくるめて支払手数料と認識するかどうかというのも判断は分かれますよね。」という財務省担当官の発言が記載されている。

[7] 熊王/渡辺・前掲(注3)223頁は、「熊王:いずれにしても、そんなもの(筆者注:銀行の利用明細のこと)をいちいち送ってもらえないから、精算書でいいということになるんでしょう。渡辺 :ただ、振込手数料くらいでいちいち買手は精算書を発行してくれないと思うんですよ。売手が請求書にあらかじめ返還インボイス、つまり振込手数料の内容を記載して発行する方がまだ現実的な気がするんです。」と述べている。

[8] 前掲(注6)税務通信46頁では、財務省担当官が、「(返還インボイスは)一定期間でまとめて交付することもできるということになっていますので、そういったことも踏まえながら対応を考えていただくのが重要かなと思います。また、どちら(筆者注:振込手数料処理か、売上値引処理のいずれかの処理を指すと思われる。)の場合であっても、継続的に毎月やり取りしているのであれば、翌月の書類に何か反映するような対応をすればいいわけです。」と発言している。

[9] 前掲(注6)税務通信45頁の財務省担当官の発言では、「簡易課税の場合は支払手数料をどれだけ課税仕入れとして積み上げても仕方ないわけですから、売上げから落としておくということだと思います。」、あるいは「それから比例配分方式ですね。売上値引きにすると課税売上割合の影響を受けないということになりますので、そういった意味でも売上値引と処理するインセンティブもあるかと思います。」と述べており、興味深い。

[10] 熊王/渡辺・前掲(注3)223頁は、「渡辺:売掛金から差し引く振込手数料が220円なのに、440円とか水増しした手数料を差し引いて振り込んでくる会社とかがありますね。これは悪しき習慣です。この機会に、振込手数料についてはどちらかが負担するのかも、きちんと取り決めた方がいいと思います。」と述べている。

[11] 前掲(注6)税務通信47頁において金井税理士は、「実務的な手間をかけてでも控除の権利を行使するのか、という問題なので、実務的には控除しないといった選択もあり得ると思います。」と発言している。


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