海外子会社等への利益移転に対処するための税制の一つとして「国外関連者に対する寄附金」という制度があります。「国外関連者に対する寄附金」に該当すると、全額が損金不算入(=経費と認められない)となります。近年では、税務調査において寄附金認定され、課税されるケースが多発しています。
1 国外関連者に対する寄附金
法人が支出した寄附金のうち、国外関連者に対するものは、その法人の所得の計算上、損金の額に算入されません(全額損金不算入)。
海外子会社等に対する利益移転を防止するための制度としては「移転価格税制」があります。一般論としては、親子間の取引価格の操作を通じた所得移転を防止するのが移転価格税制であり、金銭贈与や無償の役務提供、債権放棄等による利益供与を防止するのが寄附金課税と考えられます。しかし、現実的には「移転価格税制」と「国外関連者に対する寄附金」について明確に区分するのは困難といえます。税務調査の現場でも、本来は移転価格税制の対象となる取引であっても、国外関連者への寄附金として課税されるケースも多いと思われます。
国外関連者との取引について移転価格課税された場合と、寄附金課税された場合では、基本的に追徴税額は変わりません。ただし、移転価格課税の場合には相互協議により二重課税が排除できる可能性がありますが、寄附金課税の場合には通常、相互協議の対象とはならないため、二重課税を解消するには国内法上の救済手段によるしかありません。
2 狙われる寄附金課税
近年、海外子会社との取引が税務当局に問題視され、寄附金課税されるケースが増えています。以下は、2015年4月6日の日本経済新聞の記事の一部です。
グループ内取引課税拡大 国税、「利益移転」調査厳しく
企業のグループ間取引が「利益移転」にあたるとして税務当局から課税されるケースが目立つ。親会社が子会社の増資や減資に応じた場合に課税されたり、海外子会社に出向した国内親会社の従業員の人件費に課税されたりなど広範囲に及ぶ。企業は当局の求めでやむなく修正申告に応じる例が多いが、訴訟に発展する場合もあり、今後のグループ展開に影響を及ぼす可能性がある。
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ある中堅メーカーは最近、税務調査で当局から指摘され、慌てて顧問税理士に相談中だ。このメーカーは海外子会社へ従業員を出向させ、その給与は全額、親会社であるメーカーが負担し税務上の損金にしていた。だが、当局は「本来、海外子会社が負担すべき給与を親会社が負担するのはおかしい。給与は子会社への寄附金とする」という。
別のメーカーは「留守宅手当は寄附金にあたる」と当局から指摘され仰天した。海外子会社に出向中の従業員のため、給与の一部を国内で支払うのが留守宅手当。税務当局は従来、親会社の損金にしてよいとしていた。ところが最近「半ば強引に寄附金課税しようとするケースが目立つ」
広告宣伝費でも海外子会社で製造・販売する商品の広告宣伝費を国内親会社が全額負担すると「利益移転を指摘される可能性が大きい」(税理士)。当局に指摘される煩わしさから「海外への広告宣伝費負担を控える動きもある(税理士)。
税務調査の際に企業側はどう対応すべきか。最も注意したいのは子会社を立ち上げ、軌道に乗せるまでの段階。親会社が広告宣伝費などをふたんするのは一般的だが、当局からは「利益移転があると指摘されやすい」(税理士)
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海外取引で申告漏れ指摘 60%が「寄附金」で追徴
関係者によると、2012年7月から13年6月までに日本企業が海外との取引で当局から申告漏れを指摘された事例のうち、約60%が寄附金課税として追徴課税された。移転価格税制の適用は約20%にとどまった。
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3 税務署での海外取引調査の状況
近年では、税務署においても国外関連者を有する法人を中心に調査を展開しています。
東京国税局管内の税務署において把握された国外関連者に関係する非違(移転価格税制、タックスヘイブン対策税制、過少資本税制、国外関連者に対する寄附金等)の状況は以下の通りとなっています。「国外関連者に対する寄附金」の申告漏れ金額が増加していることが分かります。
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