4.審判所の判断

請求人代表者は、経理担当者から、決算にあまり影響が生じないような金額で複数の事業年度に分けて本件差額を材料仕入高として経費を計上したい旨の相談を受け、一度に多額の材料仕入高を計上した場合には金融機関から借入金の返済要求がされるなどの影響が生じると考え、複数の事業年度に分けて計上することを了承した。経理担当者は、かかる承認を得て、本件各事業年度において、実際には取引等の事実がないJ社からの材料仕入高を計上する会計処理を行った。このことから、経理担当者は、本件各事業年度におけるJ社からの材料仕入高につき実際とは異なるものであることを認識しながら、水増しした材料仕入高を帳簿書類に計上し、同代表者は、本件各事業年度においてJ社からの実際の材料仕入高ではなく、水増しした材料仕入高により帳簿書類が作成されていたことを認識していたと認められる。

そうすると、請求人は、行為の意味を理解しながら故意に事実をわい曲したものということができ、J社からの材料仕入高につき、水増し後の材料仕入高であるかのように仮装したものというべきである。

5.解説

過年度遡及会計基準は平成23年4月1日以後開始事業年度から適用されることから、その前後の事業年度で行われるべき過去の誤謬の訂正(過年度申告過大を前提とする)を要約すると以下のとおりとなる。

(1)平成23年4月1日より前に開始する事業年度

会計上は、当事業年度に発見した過去の誤謬については、企業会計原則注解(注12)に従い、前期損益修正項目(前期損益修正損)として当事業年度の特別損失に計上する。税務上は、過去の事業年度の原価や費用損失項目を当事業年度の損金に計上できない(法法22①③)ため、申告書の別表四で申告加算する。一方、かかる申告調整を行った確定申告書[1]が提出された税務署長は、更正の期間制限の範囲内で、過去の誤謬のあった事業年度の減額更正を行う[2](法法129①)。

(2)平成23年4月1日以後開始する事業年度

会計上は修正再表示の方法によることとなる。税務上、修正再表示の会計処理は、法人税法129条1項の「修正の経理」と認められる[3]。修正再表示は当事業年度の損金に影響しないので、別表四の申告加算は不要であるが、別表五の「期首現在利益積立金額」が前事業年度の「差引翌期首現在利益積立金額」と異なることとなるため、調整が必要となる。一方、かかる確定申告書[4]が提出された税務署長が過去の誤謬のあった事業年度の減額更正を行うのは上記(1)と同様である。

請求人は、上記いずれの処理にも従っておらず、結果的に法人税法129条1項に規定する「修正の経理」が行われていないと認定され、かつ、材料仕入高を水増し計上することで「仮装経理」と判断され、重加算税の対象ともされた。

 


脚注

[1] 当該確定申告書には、過年度事項の修正の内容が記載された書類もしくは当該内容が記載された財務諸表を添付しなければならない(法法74③、法規則35)。

[2] 実際には、税務署長が過去の誤謬の修正の事実を把握するのは困難なところから、更正の請求を行うことが望ましいとされている。

[3] 「法人が『会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」を適用した場合の税務処理について(情報)』(平成23年10月20日、国税庁法人課税課・審理室・調査課)の問8参照。

[4] 上記注²同様。


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