4.審判所の判断

請求人は、Mの売上げやその費用の額が請求人の事業に係る事業所得の金額の計算上売上金額又は必要経費の金額に算入されるべきことを認識しつつ、これらをあえてその集計計算から除くなどして各年分の売上金額及び必要経費の金額を算出し、その算出したところに基づいて収支内訳書を作成の上、これに基づく所得税等申告書を提出することで過少申告行為に及んだものと認められる。

しかしその一方で、全証拠等によっても、上記の過少申告に至る過程で、請求人が架空名義の請求書を作成し、架空名義の支払明細書を作成させ、あるいは、他人名義の預金口座に売上代金を入金させたというような事実は認められず、支払明細書や領収証等の取引に関する書類を改ざんし、あるいは本件売上メモを作成し、又はこれらの書類を意図的に破棄・隠匿したなどの事実も認められない。

そして、請求人の妻が、支払明細書や領収証等の書類の一部(Mに係るもの)を売上金額及び必要経費の金額の集計計算の基礎から作為的に除いていたという行為自体についても、請求人が支払明細書や預金通帳の全てを保存し、調査の際には、当初から売上金額の過少計上の事実を認めつつ、これらの書類を調査担当職員に提示していたという事情に鑑みると、当該行為をもって真実の所得解明に困難が伴う状況を作出するための隠蔽又は仮装の行為と評価することは困難である。

これらのことからすると、上記の過少申告に至る過程で、請求人に隠蔽又は仮装と評価すべき行為があったということはできない。

5.解説

所得税の重加算税の賦課に関しては、平成7年最高裁判決[1]が必ず参照され、そこでは、①過少申告行為とは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要する、②納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をした場合(下線筆者)という判断基準が示されている。

本件において、審判所はまず、上記4のとおり、入手した全ての証拠からは、書類の改ざんや意図的な破棄・隠蔽は認められないとして、請求人による積極的な隠蔽・仮装行為はなかったと判断している。

次に、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動の有無については、審判所は、「本件売上メモについては、申告後に現存していないことは当事者間に争いがなく、(中略)仮に、原処分庁の主張する本件売上メモが、妻が売上金額の集計作業の過程で作成していたとする何らかのメモを意味するものであったとしても、請求人の申述又は妻の答述に照らすと、当該メモは、飽くまで集計過程の金額を備忘的かつ一時的に記載した単なる手控えにすぎないと認めるのが相当であるから、そのようなメモを請求人又は妻が申告後に廃棄していたとしても、これを隠蔽行為と評価することは困難である」と判断し、過少申告行為そのものとは別に、隠蔽又は仮装の行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたものと評価し得るような「特段の行動」が請求人にあったとは認められないとしている。


[1] 最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁


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