イノベーションを起こす「両利きの経営」
1つ目は「両利きの経営」というコンセプトです。
(『両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り開く』チャールズ・A・オライリー/マイケル・L・タッシュマン 共著/入山章栄 監訳/渡部典子 訳/東洋経済新報社)
かねてより、筆者(私)は、中小企業の多角化戦略を提唱し、生き残り戦略の軸にすべきと唱えています
(参考:会計士 中村亨の「経営の羅針盤」第3回-大廃業時代のススメ「事業や戦略の再構築①」/会計士 中村亨の「経営の羅針盤」第4回-大廃業時代のススメ「事業や戦略の再構築②」)
この「両利きの経営」は、事業を多角化するというコンセプトをもう一歩進めて、事業を入れ替えるという発想に近い戦略を取る場合にとても参考になります。
また、冒頭で様々な「シフト」を唱えましたが、企業の事業を大きくシフトする際に参考になる理論です。
両利きということですから、右手も左手も使える経営、ということです。
以下私なりに気になった部分をピックアップします(網羅的に学びたい方はぜひ書籍購入を)
■現代はイノベーションが必要
成熟した事業だけでは、環境変化に対応できず、先行きが不透明である
■イノベーションに必要なのは既存事業の「深化」と新しい事業の開拓を目指す「探索」という2つの活動が必要であり、この2つを継続的に両立させなければサバイバルできない
-老舗企業は常に「深化」に専念し、徐々に力を失う
-成功すればするほど「深化」に偏り、長期的に破綻する(成功のトラップ)
■イノベーションはリーダーシップが求められる
経営者は常に「探索」という概念と機能を自ら持ち合わせ情報収集すべきである
■事例としては、米国の2つの企業を上げてその明暗を記載している
ネットフリックスとブロックバスター
1999年創設のネットフリックスは、2015年時点で年間売上高60憶ドル以上の世界最大のオンラインDVDレンタルサービスと動画配信の会社となっている。
一方、ビデオ・DVDのレンタルチェーン店ブロックバスターは、2002年時点の売上高は55憶ドルだったものの、8年後の2010年に破産申告している。
2社の明暗を分けたのは「リーダーたちの変化の捉え方」にある。ブロックバスターのリーダーたちは好立地店舗でのレンタルという現業に集中。対照的に、ネットフリックスのリーダーたちは、DVDレンタルという成熟事業と、オンライン動画配信という新領域の両軸で市場競争を行い、見事に転身を果たした。
成功する企業には、自社の資産を再構築できるリーダーが存在している。つまり、自社の持つ一定分野の知を継続して深掘りし磨きこむ「知の進化」と、認知の範囲を超えて広げていこうとする「知の探索」ができる、「両利きの経営」が実践できるリーダーである。
■両利きの経営はつまるところ、組織論であり、それを成功させるためには4つの要素が必要
以下のうち、上の2つは必要条件で、下の2つが特に重要です。
☑戦略的意図
二兎を追う戦略であるがゆえに不効率であることを理解し、戦略的に進める
短期的な損失の増加を前提とすることが必要
☑経営陣のリーダーシップ
当然のことですね
☑分離と統合を両立した組織構造
探索事業と深化事業の距離をとりながらも(分離)、企業内の資産や組織能力は活用させる(統合)
☑共通のアイデンティティ
ビジョン、価値観、文化の共有によって全員を巻き込み、同じチームの仲間である意識を持つ
協力が必要なことを正当化する共通のビジョンがない限り、探索事業と深化事業は互いに邪魔や脅威とみなす可能性が高くなる
「余計なことはしない」も企業の在り方のひとつ
さて、もう1つ、最近気になる企業があります。
それは作業服のワークマンです。(「ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか」/酒井大輔 著/日経BP社)
この会社、ユニクロ、ニトリを追い越せ、をスローガンにSPA事業(製造小売。企画から製造、小売りまでを行うビジネスモデル)に転身して大成功した会社です。
別の機会にたっぷり比較して論じたいと思いますが、今日は、この会社は「変えるもの」と「変えないもの」を明確に峻別して改革に成功したそうです。
この変えなかったことの中に、もともと根付いてた「余計な仕事はしないという文化」を変えずに維持した、ということが書いてありました。
今日のコラムではここだけを紹介したいと思います。
といいますのは、何だかんだ言って、どうしても企業は人材不足にもかかわらず、あれもこれもやろうとして結局どれも中途半端になってしまいます。
これが企業というか経営者の宿命なのですが、その中で「余計なことはしない」というのはとても重要なことであると思えるからです。
<ワークマンが「しない」こと>
・残業、ノルマや短期目標といった社員のストレスになること
・他社との競争、値引き、顧客管理、取引先の変更などワークマンらしくないこと
・社内行事や会議など価値を産まない無駄なこと
・それまで築き上げてきた消費者からの信頼が崩れるような、価値が高い商品の生産
・販促費をかけてマーケティングをしないと売れないような商品の生産
ワークマンが好調な理由には、「余計なことをしない」以外にも「ローコスト経営」「標準化経営」など複数ありますが、それらが功を奏し、2020年5月末の店舗数はユニクロを抜き去り869店舗、既存店売上高は20年3月まで17か月連続で前年比2桁成長を継続しています。
ということで今回は環境変化による「シフト」、そしてイノベーションのための両利き経営、そして余計なことをしないという複数テーマをミックスしてお届けしてみました。
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