5.解説
(1)処分証書について
民事訴訟実務上、「書証」という言葉は、通例、証拠調べの対象となっている文書自体を指すものとして用いられている[3]。「書証」には、「処分証書」と「報告文書」があり、前者は、立証命題である意思表示その他の法律行為が記載されている文書で、契約書、手形、遺言書などがこれに当たり、後者は作成者の見聞、判断、感想などが記載されている文書で、領収書、商業帳簿、日記、陳述書などがこれに当たる[4]とされている。本件のように、書証が存在する場合の事実認定について、最高裁は、「処分証書が存在する場合には、その成立が認められれば、特段の事情がない限り、一応その記載どおりの事実を認めるべきであり、当該書証を排斥するに足りる特段の事情を示すことなく記載内容と抵触する事実を認定することは許されない[5](下線筆者)」と判示している。
これを本件について見ると、本件21年文書は処分証書の外観[6]を有していることから「特段の事情」の有無が問題となるところ、審判所は、「①請求人は、原処分に係る調査及び再調査の請求に係る調査において、本件各現金贈与の贈与者が誰であるかが問題となっていたにもかかわらず、本件21年書面の存在には言及していなかった、②請求人は、審判所に対し、本件21年書面の作成状況について記憶していない旨答述している、③請求人は、平成22年3月11日、平成21年の現金贈与について贈与者をAとして贈与税の申告をしたことから、本件21年書面は、平成21年6月4日の現金贈与に際して作成されたものではなく、事後的に(早くとも平成22年3月11日以降)作成されたものと認められる」とし、本件21年書面について、その内容どおりの贈与の意思表示が本件21年現金贈与に際して存在したとはいえない特段の事情が認められると判断した。
(2)相続時精算課税について
相続時精算課税制度とは、生前贈与について、受贈者の選択により、贈与時に贈与財産に低い税率で贈与税を課しておき、その後の相続時にその贈与財産と相続財産とを合計した価額を基に計算した相続税額から、先の贈与税額を控除することにより、贈与税と相続税を通じた納税を可能とする制度である。本件では、請求人が、申告時にこの制度を選択していたため、平成18年以降Aから贈与された財産については、全て、相続税の課税価格に加算されることになる。したがって、本件各現金贈与の贈与者が誰であるかは、極めて重要な意味を持つ事案であった。
[3] 司法研修所編『民事訴訟における事実認定』(平成25年・一般社団法人法曹会)51頁
[4] 前掲書・18頁
[5] 最判昭和45年11月26日民集101号565頁
[6] 本件21年書面には、贈与者をB、受贈者を請求人として、平成21年6月4日に、現金111万円を贈与する旨の記載があり、それぞれB及び請求人の自筆による署名がされている(ただし、押印はない)。
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