租税法に内在するジェンダー問題
ジェンダー問題については、租税法も対岸の火事というわけではありません。
租税法領域においてもジェンダー問題は古くから議論がなされてきたところであり、とりわけ、所得税法においては、例えば、個人単位主義を標榜しつつも実現していないとか(※1)、配偶者控除が女性の社会進出に水を差している(※2)などという批判が展開されたりしてきました。また、寡婦控除の議論(※3)ではジェンダーの相違を巡る論点が典型的に現れてきたところです。
※1 所得税法は、家単位ではなく、個人単位で納税義務を考えることを原則としながら、夫婦や親族間での所得の移動については無視する取扱いを設けています(所法56:事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)。これが、とりわけ女性配偶者の仕事や社会進出を阻害しているのではないかといった見解があります。
※2 長らく女性配偶者の就労制限の要因といわれてきたいわゆる「103万円の壁」は、配偶者控除の金額を基準にした数値です。同控除及び配偶者特別控除の改正によって、今や所得税法上は「103万円の壁」は無くなっていますが、依然として、これに関する誤解や、租税法領域外の各種ベンチマークへの影響は残されています。
※3 現在の寡婦控除は、男性である「寡夫」をその対象としていません。令和2年度税制改正において、「ひとり親控除」が創設されたことに伴い、かつての「寡婦(寡夫)控除」は、現在の「寡婦控除」へと改正されました。一定の「寡婦」には所得控除を認めるのに、「寡夫」には認めないという点には、明らかにジェンダー問題が存在しているといえましょう。
確定申告書に見るジェンダー問題
さて、昨今LGBTQ+(lesbian, gay, bisexual, transgender, questioningなど(以下では、幅広く性的マイノリティーを含む議論として、「LGBTQ+」と表記します。))のようないわゆる性的マイノリティーに対する保護が論じられる機会も増えてきました。社会の情勢とともに多様な人々を受け入れる寛容な社会が到来することを多くの人々は願っています。
しかしながら、租税法に関していえば、そもそも所得税法は民法の考え方をその基礎に置いているため、例えば、同性婚を前提とした配偶者控除や寡婦控除の適用を認めていません。所得税法にいう「配偶者」とは、あくまでも異性を前提としていると言わざるを得ないというわけです。
また、確定申告書に記載すべき「男女の別」の記入欄を見ると、「人は必ず男性か女性である」ことを前提としているようにも思われます。このような記載欄の1つを取り上げたとしても、LGBTQ+のようないわゆる性的マイノリティーの人たちにとってみれば、悩ましい問題が潜んでいます。
平成15年には、性的マイノリティーに対する障壁を少しでも排除すべく、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(平成15年法律第111号)が国会を通過し、翌年より施行されています。この点、確定申告書の記入欄は、性的マイノリティーに対する障害の1つであったのかもしれません。
さて、令和2年分所得税の確定申告書からはこの男女の別の記入欄が削除されました。ダイバーシティーを認める寛容な社会への小さな歩みとして数えられるべきものでしょう。
そもそも、これまでも確定申告書の扶養控除欄の「続柄」の欄には、例えば「長男」や「長女」、「次男」や「次女」といった記載はしないこととされており、そこに書くべき続柄は「子」のみであったわけですが、世界的にも最低水準の我が国のジェンダー問題を解決するためには、こうした小さな障害を一つずつ取り除いていくことも必要となりましょう。
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