3.原処分庁の主張
本件測定は、測定時間が1時間程度で、測定方法も明らかでないことから、その測定結果を基に本件土地において著しい鉄道騒音があるか否かを判断することができず、また、本件土地の固定資産税評価額について鉄道騒音による減価補正を適用していることをもって、本件土地の取引金額が鉄道騒音の影響を受けていることにはならず、本件土地は本件取扱いの対象となる利用価値が著しく低下している宅地には該当しない。
4.審判所の判断
(1)法令解釈
評価通達[2]1の(3)は、財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する旨定めており、これが、財産評価の一般原則として、相続税法第22条に規定する時価の考え方に照らし相当と解されることからすれば、評価通達に基づき路線価方式により宅地を評価する場合であっても、その宅地に、その価額に影響を及ぼすべきその宅地固有の客観的な事情が存するときには、当該事情が評価通達に定めるところにより一定の加算又は減算による調整を行うものや適用すべき路線価に既に反映していると認められるものを除き、所要の考慮を要すると解するのが相当である。
本件取扱いは、課税実務上の取扱いとして、騒音等の各種の事情により、その付近にある他の宅地の利用状況からみて、利用価値が著しく低下していると認められる部分のある宅地について、その価値に減価を生じさせている当該事情が、その宅地の評価上適用すべき路線価の評定において考慮されていない場合に限り、その宅地固有の客観的な事情として10%の減額をするものであり、当審判所においても相当であると認められる。
(2)検討
請求人が行った本件測定の方法は、不合理な測定方法とまではいえず、その測定結果には一定の信用性を認めることができ、かかる本件測定の結果によれば、①在来鉄道騒音指針の等価騒音レベルによる昼間の指針値である60デシベルを上回っていること、②本件測定における連続して通過する20本の列車の上位半数の測定値は、どの20本をとっても、いずれも新幹線騒音基準のピーク騒音レベルによる基準値である70デシベルを上回っていること、及び③全通過本数25本のうち21本の測定値が同基準値を上回っていることが認められる。
また、本件土地の所在する市及び隣接する市において、固定資産評価基準に定められた所要の補正の一つとして、鉄道騒音により土地価格が低下することを固定資産税評価額に反映させるための減価補正が設けられ、現に、本件土地の固定資産税評価額については、鉄軌道中心線から10m以内に存する場合の0.90の鉄道騒音補正率を適用して算定されていることが認められる。そして、固定資産評価基準は、市町村長が、固定資産の価格決定する際の客観的かつ合理的な基準であると認められるところ、このような固定資産評価基準における所要の補正の趣旨に照らせば、列車走行により発生する騒音が、鉄軌道中心線から30mの範囲内の土地の価格低下の要因となっており、その価格事情(鉄道騒音)が、当該土地の価格に特に著しい影響を及ぼしているものと認められる。
以上から、本件土地については、①本件路線価に騒音の要因がしんしゃくされていないこと、②列車走行により、相当程度の騒音が日常的に発生していたと認められること、③当該騒音により、その地積全体について取引金額が影響を受けていると認められることから、本件土地の全体につき、騒音により利用価値が著しく低下している宅地として本件取扱いにより減額して評価すべきものと認められる。
(3)原処分庁の主張の排斥
原処分庁のいう測定時間について、1日のうち何時間測定するのか、又は、1日に通過する列車の何本について測定を行うべきかという点に関して、一般的に受け入れられている準則があると認めるに足りる証拠はなく、また、本件測定の結果のみに基づいて、本件土地に相当程度の騒音が発生していたと判断するものではなく、本件土地が騒音により利用価値が著しく低下している宅地として減額して評価すべきであることは上記(2)で述べたとおりであるから、原処分庁の主張は採用することができない。
[2] 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56、直進(資)17)
5.解説
本件取扱いの適用が争われた最近の審査請求事案として、平成26年5月13日裁決(関裁(諸)平25-43・TAINS F03-3-412)及び平成30年2月27日裁決(関裁(諸)平29-38・TAINS F03-3-600)がある(いずれも未公表)。前者はJR線高架橋による鉄道の騒音が問題とされた点本件と類似するが、そもそも当該影響が問題とされた土地の路線価の算定に反映されていたことから、本件取扱いの適用はないと判断された。また、後者は問題とされた土地が文化財保護法に規定する埋蔵文化包蔵地に所在するとしても、埋蔵文化財に関する調査がされておらず、請求人らに実際に発掘費用の負担も生じていないことから、土地に利用価値が低下していると認められる事実は見当たらないと判断された。
本件では、前者の事案とは異なり、該当する路線価の決定にあたり、鉄道騒音の要因がしんしゃくされていないことは明らかであり、審判所は、請求人が行った本件測定を丁寧に検証し事実認定することによって、本件土地の利用価値が著しく低下していると結論付けており、その判断は相当であると解される。
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