フリーライダー問題
富士山入山税は5合目から上に立ち入る登山者が負担するものであることから、4合目までの登山者や観光者がフリーライダーになるといった応益的側面からみた租税負担の問題が惹起されていますが、これに比して宮島訪問税は島内に入る観光客に対して一律に課されるものという意味では、かようなフリーライダー問題は少ないものと思われます。
もっとも、上記報道にはやや気になる記載もあります。
「税収は宮島の観光振興や、島内の医療体制整備などに充てる。トイレや無料Wi-Fiの整備などにも使い、観光客の受け入れ環境を改善させる。同市は年間200万人の観光客が宮島を訪れれば2億円、300万人が訪れれば3億円の税収効果があると見込む。」
観光客に負担させる税金が、観光振興行政やトイレ、無料Wi-Fiの整備に使われることは理解できますが、「島内の医療体制整備などに充てる」という点には疑問を挟む余地があるかもしれません。
担税者たる観光客は、観光に伴うサービスを受益することの見返りで税金を負担するという応益的負担構造を採用するのであれば、「島内の医療体制整備などに充てる」ことと観光客の租税負担との間に如何なる関係性が成立するのでしょうか。これは、いうなれば、地域住民がフリーライダーになっているのではないかという指摘にも繋がりましょう。
外来者の入島によってコロナ感染の危険性が増すため、観光行政の一貫として、医療体制の整備を行う必要があり、かかる整備費用は観光客の租税負担によって賄われてしかるべきであるというような理論的整理がなされているのでしょうか。あるいは、観光客がケガや病気をして地域の病院で受診する可能性もあることに鑑み、受益と負担の関係を整理しているのかもしれません。
「地方税は地域社会の会費」などともいわれるように応益負担原則の性格が色濃いものですが、宮島訪問税の今後の制度設計はどのようになるのでしょうか。今後も注目していきましょう。
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中央大学法科大学院教授/法学博士
中央大学法科大学院教授。法学博士。現在、税務会計論・租税法などを担当。一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。単著に『スタートアップ租税法〔第4版〕』、『クローズアップ保険税務』、『クローズアップ事業承継税制』他5冊のアップシリーズ、『所得税法の論点研究』(財経詳報社)、『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』、『裁判例からみる法人税法〔三訂版〕』、『裁判例からみる税務調査』、『裁判例からみる保険税務』(大蔵財務協会)、『レクチャー租税法解釈入門』(弘文堂)、『プログレッシブ税務会計論Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ』(中央経済社)、『アクセス税務通達の読み方』(第一法規)、『キャッチアップ企業法務・税務コンプライアンス』、『キャッチアップ外国人労働者の税務』、『キャッチアップ保険の税務』(ぎょうせい)など。その他、論文多数。
■一般社団法人アコード租税総合研究所
http://accordtax.net/
■一般社団法人ファルクラム(FULCRUM)
https://fulcrumtax.net/