皆さん、今回はSDGsを勉強したいと思います。
「何それ?」「いまさらか?」「言葉だけは知っている」「似た用語がたくさんあって意味合いの違いがよくわからない」「もう取り組んでいるよ」「まだまだ先の話でしょう!」など、皆さんの反応は様々でしょう。 「全然、聞いたこともない」という方は比較的少ないのではないでしょうか。(17個のカラフルなアイコン、あれですね!)
今からでも取り組めることはたくさんあります。特にビジネスとのかかわりの部分について、本コラムでは、筆者自身が気になっている疑問を中心に、今回から何度かに分けて解説します。
★中小企業にも取り組むメリットが多大にある!
SDGsに関連する活動や取り組みについて、皆さんどのような印象を持っているでしょうか?
「ボランティア活動なのか?」「大企業にのみ関係があるのでは?」「ビジネスになるのか?」「利益追求目的で行ってはいけないものなのでは?」など、中小企業で働く方々の中には、デメリットが多い、メリットを見いだせないと思う経営者の方が多いと想定されます。
一言で言うと、そのような認識には誤解があると思います。
中小企業にとって(もちろん大企業にとっても)、取り組むデメリットよりも、取り組まないデメリットの方が大きい、と筆者は考えます。
しかし取り組めば、「今すぐにメリットがある」というものではなく、「しっかりと取り組めば3年後、5年後に成果が出る」というタイムラインであると筆者は考えます。
「メリットがある」と考えられる理由をまとめると以下の3つの視点に集約できます。
①人的要素 ② ビジネス的要素 ③ コスト的要素 です。
- ①人的要素
既に学校教育の現場では、SDGsについて学ぶことが義務化され、学生たちにとってSDGsは身近で重要な問題となっています。
そうすると、就職を考える段階、つまり、自らのキャリア選択にも自ずと影響するでしょう。
SDGsに取り組む企業を就職先として考える学生が増えることが推察されます。
また、既に働いている社員(社会人)にとってもSDGsに取り組む企業に勤めているという自負が一種のモチベーションアップにつながります。
つまり、人手不足が叫ばれる昨今はまさに、SDGsへの積極的な取り組みが、企業側からすると人材の確保に有効、いや大前提となる時代が来る、ということです。
②ビジネス的要素
世間のSDGsに対する関心は想像以上に高まっています。
消費者の視点に立っても同じことです。企業がSDGsに積極的に取り組んでいる、積極的な姿勢を見せている、という印象を持つことによって、消費者はその企業の商品やサービスにも良い印象を持ち、関心を抱きます。
ダイレクトにSDGsの考えを商品開発やサービス開発に反映させることができた場合はもちろんのこと、そうでなくとも「取り組み姿勢」自体が、企業がより広く消費者、市場に認知され、マーケットの拡大につながる、というメリットがあります。
では、消費者向けのビジネスをしていない会社はどうか?というと確かに少し遅くはなるでしょうが、企業対企業のビジネスであっても、SDGsへの取り組み姿勢、というものを取引可否の判断材料にする時代が、ゆっくりではありますがやってくると考えるのが自然ではないでしょうか。
- ③コスト的要素
現在、SDGsと密接に関わる「カーボンニュートラル(=脱炭素)」の取組みは政府からも推奨されており、それに関連する設備投資などへの補助金も手厚く用意されています。
また、新聞報道を見る限り、脱炭素の取り組みに積極的な企業は、金融機関からの資金手当に際して優遇、或いは優先される傾向にあるようです。
上場している会社について考えると、投資家的視点からもSDGsは重要な役割を果たしています。既に機関投資家は、企業が環境問題や社会問題に取り組んでいるかどうかをその判断材料にしていますし、いずれは個人投資家にもその波はやってくるだろうと推察できます。
つまり、SDGsに取り組む企業は資金調達もしやすくなっていく、ということができます。
このことを少し拡大して解釈すると、SDGsに取り組む企業は、企業活動がある意味でしやすくなる、という言い方もできるのだと思います。
ここまでくるとメリットうんぬんというよりも、企業が(大小関係なく!)社会とともに持続していくために、それぞれの企業に合ったSDGsの取り組みが必要不可欠となってきていると言っても過言ではないかもしれません。
繰り返しにはなりますが、もちろん、今すぐにはメリットはないかもしれません。
今日明日の業績や資金繰りに頭を悩ませている中小企業では、本音では「そんな暇はない」ということになってしまいますが、それでもほんの少し時間を割いてこの活動への取り組みを真剣に考え、行動することが3年先、5年先にライバルに差をつけるための手段の一つでもあるといえるでしょうし、企業継続のための不可欠な要素になる時代が来る、と考えるべきでしょう!
★では、具体的にSDGsとはいったい何なのか?
具体的に見ていきましょう。
そもそもSDGsとは何なのか、改めて確認していきます。
SDGs= 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。
2015年9月の国連サミットにおいて加盟国全会一致で採択され、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標です。
「持続可能な」世界を作るため、17の目標と169のターゲットというものが設定されています。
1 貧困をなくそう
2 飢餓をゼロに
3 すべての人に健康と福祉を
4 質の高い教育をみんなに
5 ジェンダー平等を実現しよう
6 安全な水とトイレを世界中に
7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに
8 働きがいも経済成長も
9 産業と技術革新の基礎をつくろう
10 人や国の不平等をなくそう
11 住み続けられるまちづくりを
12 つくる責任 つかう責任
13 気候変動に具体的な対策を
14 海の豊かさを守ろう
15 陸の豊かさも守ろう
16 平和と公正をすべての人に
17 パートナーシップで目標を達成しよう
以上が17の目標です。
1から6が「社会」の目標、7から12が「経済」の目標、13から15が「環境」の目標、16と17が「枠組み」の目標とされています。
例えば「5 ジェンダー平等を実現しよう」「8 働きがいも経済成長も」などは、男女共同参画、働き方改革の観点から、どの企業でも既に身近な問題ではないでしょうか。
「12 つくる責任 つかう責任」「13 気候変動に具体的な対策を」に関しては、ビニール袋の有料化などに現れていますし、それは同時に「14 海の豊かさを守ろう」「15 陸の豊かさも守ろう」にも関連しています。
「17 パートナーシップで目標を達成しよう」はまさに今、私が皆さんとSDGsについて認識を深め、その輪を広げていくことも含まれています。
意外と気づかないところで、もう既に私たちはSDGsに関わっているのです。
★似た言葉との違い/「CSR」や「ESG」との違い?
ここで注意ですが、似たような横文字の言葉に、「CSR」や「ESG」があります。CSRとは「Corporate Social Responsibility」の略であり、「企業活動における社会的責任」を表しています。企業は社員や消費者へ配慮するだけでなく、社会全体に対する影響を考慮しながら意思決定を下さなければなりません。日本でCSRが注目されるようになったのは、企業の不祥事が相次いだことがきっかけです(一時期、食品の賞味期限や成分などについての偽装といった問題が頻発しましたね)。個別企業の社会的責任、というコンセプトを明確化する意味合いが強いですね。
企業が社会的責任を意識して行動することは当然にSDGsの目標達成につながる、ということです。
ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」を表しています。企業が成長していくためには、ESGの3つの観点が必要不可欠であるという考え方です。ESGの観点から投資先を選定するESG投資も注目を集めており、ESGは投資家にとっても重要な指標の一つです。
よって、ESGは企業が経営を進めるうえで重視される要素であるのに対し、SDGsは国や企業などが持続可能な世界を実現するための目標です。昨今は企業がESGに配慮しながら活動を進めれば、結果としてSDGsで定められている目標達成を実現できると考えられています。
そのため、企業がESGやSDGsに取り組む際は、両方をセットにして取り組む場合がほとんどです(大企業においては、ESGとSDGsのマトリクスを作成し、ホームページ上で公開している会社もありますね)。
★ビジネスとの関わり
SDGsとビジネスはどう関わるか?
現在、世界にはさまざまな変化が起きています。その変化によって、従来どおりのビジネスの形が通用しなくなってきています。企業が「持続可能」であるためには企業が従来の形を変えていく必要があるのです。
例としてわかりやすいのは、自然災害の多発化、というのがあります。大規模な自然災害の発生などにより、インフラや生活基盤が重大な損害を被り、付随してビジネスの基盤もまた、大きなダメージを被ることがあります。企業はこの現状に対し、ビジネス継続のため対策をとっていかねばなりません。同時にその原因に対しても、企業の社会的責任があります。
自然災害の多くは地球温暖化に伴う気候変動の結果とされていますが、企業活動は多くの燃料を消費するため、この地球温暖化に拍車をかけてしまいます。この課題を乗り越えるのに、SDGsへの取り組みを当てはめることができます。先に紹介したSDGsの目標の一つに「13 気候変動に具体的な対策を」というものがありました。「持続可能」な世界を実現するために、この目標に沿って、今までの考えや行動を改め、新たな視点でのコスト導入や事業を行っていくことを考えましょう。
自分の会社が「持続可能」になることが、世界の「持続可能」にもつながります。今や企業と社会、企業と世界は一蓮托生の関係です。
★SDGsはビジネスのヒントになる!
上の例が示唆していますが、持続可能な企業であるために、SDGsはヒントを与えてくれます。
前回のコラムでも触れましたが、社員の柔軟な雇用・登用、というのも、SDGsの枠組みに当てはめて考えると新たな改善策が見えてくる気がします。
たとえば、「10 人や国の不平等をなくそう」や「16 平和と公正をすべての人に」などを取り入れ、障碍者雇用や刑務所出所者など社会的弱者と位置付けられる人々の雇用に目を向けること、「4 質の高い教育をみんなに」を取り入れ、非正規雇用者向けにキャリアアップ教育サービスを提供することなどです。
SDGsは既存のビジネスの進化、変革、あるいは新規ビジネスの開拓に、大きな役割を果たしてくれると言えます。
★まずは旧来のビジネス感からの脱却を!
変化の激しい今の時代、旧来の考え方や過去の産物にしがみつき続けることは得策とは言えないでしょう。
ビジネス環境が変わらなければ構わないでしょうが、現実問題、環境は変わってきています。
今までにはなかった問題が現れ、今までに求められなかったものが求められ、今まで評価対象ではなかったものが評価されるようになりました。
企業はビジネスの概念を思い切って断捨離していく必要があるのかもしれません。
以下、企業が持つべき身近な「考え方」について、詳しくは次回以降に詳述をしますが、少しだけ勉強してみましょう。
・「〇〇だけすればよい」という考えを捨てる
もはやビジネスは、眼前の顧客満足度を追求する単純な営利行為だけでは成り立ちません。
速やかに現状を直視し、現状に則したサービス、製品を提供していく必要があります。
・「雇用と納税、法令順守だけでOK」という考えを捨てる
企業の社会的責任を果たすだけでは、現在の社会を勝ち抜いていく要素として足りません。
これらの3つは最低限の前提としつつ、さらに自社の対外的役割、社会的責任を見抜き、果たしていかなければなりません。
・「売上が企業価値を決める」という考えを捨てる
企業の価値は、これからは「経済的価値と社会的価値の総合」になっていくでしょう。
財務情報だけを意識していればよいという考えは捨て、顧客と顧客以外のステークホルダーからの評価を両立させるための具体的な取組みを進めましょう。
・「決算書を読めば自社を理解できる」という考えを捨てる
従業員と自社との関係性、立地条件などの環境情報、地域社会との関わりなど、定性的な情報を大切にし、十分な発信を行い、自社の「社会的価値」を把握することが重要です。
・「給料を払えば人は働く」という考えを捨てる
企業を支え時間と労力を割いている従業員を大切にし、従業員自身を支えサポートする企業であることで、組織的なパフォーマンスを上げ、持続可能な企業を創りましょう。
・「休みをほしがるのは甘え」という考えを捨てる
人を休みなく働かせるということは、企業価値を生み出す源泉としての労働力を、企業自ら損なっていることを意味します。持続可能なビジネスのため、従業員の休暇について十分に配慮する必要があります。
・「女性は出産、育児で辞めるもの」という考えを捨てる
多くの企業は「男性中心主義」で作られてきました。女性の働き方に対する偏見を無くし、性別関係なく優秀な人材の活躍機会を広げましょう。
いかがでしょうか、従来型のビジネス観から少し離れる必要があると思いませんか?
SDGsをきっかけに、今までの“常識”を捨て、現状に則した新たな“常識”へ意識を移行し、「持続可能」な企業を実現させましょう!
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