4.審判所の判断

(1)原処分庁の主張する「相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成」の事実について

本件修繕工事については、請求人代表者が平成30年1月13日付の見積書の交付を受けて程なく工事を発注し、これを受注したH社は、同年3月31日(本件事業年度終了の日)までに下請業者の手配や近隣住民への説明その他施工に向けた準備に取り掛かるとともに、同年4月頃には請求人代表者の求めに応じて本件請求書を発行しており、その後、H社により同年7月末までに本件修繕工事が完了し、請求人は同年9月28日に本件修繕工事の代金を支払っている。かかる事実経過をみると、H社が請求人代表者の求めに応じて本件請求書を発行したことについては、現に、H社が本件修繕工事の実施に向けた準備作業を行っていたところに、請求人代表者から依頼があったからこそ、本件請求書を発行するに至ったのであるから、竣工前に本件請求書を発行したとしてもあながち不自然とは言い切れず、また、本件請求書の「納品日」欄に記載されている「3.30」については、H社の請求書発行に係るシステムの便宜上「3.30」と入力されたにすぎない可能性も否定できない。そして、本件請求書の「納品日」欄が直ちに本件修繕工事の完了日を示すと認めるに足りる証拠はないから、本件請求書の「納品日」欄に「3.30」と記載がされているからといって、本件請求書が直ちに虚偽のものであるとまでは評価できない。

さらに、提出された証拠資料からは、請求人代表者がH社に対して、本件修繕工事の代金に関して請求書の発行を依頼した旨が記述されているものの、本件修繕工事の完了日を平成30年3月30日にする旨を依頼した事実に関する記述は存在しない。

(2)原処分庁の主張する「帳簿書類への虚偽記載」の事実について

本件事業年度の総勘定元帳、決算書、確定申告書及び勘定科目内訳明細書は、請求人代表者ではなく、いずれも請求人の税務代理人により作成されたもの[1]であり、また、請求人代表者は、通常、入出金に係る会計伝票を作成するにとどまり、本件修繕費のような未払金に関する会計伝票は作成していないのであるから、請求人代表者が経理事務を担当していることや勘定科目内訳明細書に将来の費用、資産及び収益となるものを峻別した記載があることをもって、請求人代表者に、税務会計に関する知識や認識があったと認めることはできない。そして、原処分庁が提出した全証拠及び当審判所の調査の結果を踏まえても、請求人代表者に、本件修繕費を本件事業年度の損金の額に算入できないことの認識や過少申告の意図があったとは認められない。

(3)仮装と評価すべき行為の有無について

本件における全証拠によっても、原処分庁の主張する「相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成」及び「帳簿書類への虚偽記載」の各事実を認めることはできず、また、当審判所の調査によっても、本件請求書の作成、本件請求書に基づく請求人の経理処理及び本件修繕費の帳簿書類への記載などの一連の行為において、故意に事実をわい曲したと評価すべき行為は見当たらない。

以上から、請求人が本件修繕費を本件事業年度の損金の額に算入したことに、通則法68条1項に規定する仮装に該当する事実があるとは認められない。


[1] 最高裁三小平成18年4月25日判決(平成16年(行ヒ)第86号・TAINS:Z256-10377)は、「納税者以外の者が隠ぺい仮装行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視できるときには、(中略)重加算税を賦課することができる」と判示している。この点から、長島弘教授は、「税理士事務所で作成さえすれば、納税者の行為ではないとされるものではないことは、上記平成18年最高裁判決で示されている」と述べている(月刊税務事例Vol.53 No.2 2021年2月  42頁)。

5.解説

通則法68条1項にいう「仮装・隠ぺい」については様々な裁判例の蓄積があるが、代表的なものとして、最高裁三小平成6年11月22日判決[2]は、「真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図の下に(下線筆者)」行われたことが要件として示され、また、最高裁二小平成7年4月28日判決[3]では、「過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要する」と判示し、さらに「納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合(下線筆者)」には、重加算税の賦課要件が満たされるとしている。したがって、重加算税を賦課するためには、「過少申告の意図」の認定が不可欠である。本件においては、仮に請求人代表者が、本件請求書の「納品日」欄を「3.30」と記載するようH社に働きかけるといった「特段の行動」が認定できれば、原処分庁の賦課決定処分が維持された可能性がある。審判所は、「特段の行動」を示す証拠が示されない以上、過少申告の意図を認定することはできないとの判断を示したことになる。


[2] 平成5年(行ツ)第133号・TAINS:Z206-7415

[3] 平成6年(行ツ)第215号・TAINS:Z209-7518


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