消費税法上の「帳簿」
これに対して、消費税法30条《仕入れに係る消費税額の控除》8項1号は、次のように規定します。
前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一 課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
- イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
- ロ 課税仕入れを行つた年月日
- ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
- ニ 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額
すなわち、下線で示したとおり、必要事項を「記録」したものが消費税法上の「帳簿」であり、それを「保存」しなければならないのです。このように考えると、消費税法上の「帳簿」とは「取引が記録される前」の被記録媒体ではなく、「取引が記録された後」の被記録媒体であることが分かります。つまり、未記入の「コクヨ」のノートは、まだ「帳簿」ではなく、取引が記入されてはじめて「帳簿」と呼べるということになりましょう。
「帳簿」を保存するというのは、単なる「コクヨ」の白地のノートを保存することをいうのではないと考えるべきでしょうから、そのことを踏まえると、消費税法の規定の方が本来的であるようにも思われます。そうすると、法人税法は「結果の目的語」のような規定振りだということになるのでしょうか。
しかし他方で、消費税法上の「帳簿」においては、必要事項の記載漏れという概念が存在しないことにもなりましょう。なぜなら、必要事項が記載されていてはじめて「帳簿」であると解する以上、必要事項の記載が漏れているノートは「帳簿」ではないことになるからです。そのように考えると、単なる規定振りの違いという表層的な理解では、この辺りは解決しそうにないというべきでしょう(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅳ』第7章「法人税法上の『帳簿書類』と消費税法上の『帳簿』」(中央経済社2020)参照)。
企業の作成する帳簿は、その企業の経営成績や財政状態を明瞭に映し出すものです。そうすると、帳簿組織がいい加減な企業が堅実な事業展開を行っているとは考えづらく、法人や個人事業者は、自分の会社や事業に見合った帳簿を作成することが求められるのかもしれません。適正な帳簿を作成していなかったことで、税務調査の時になって慌てて蟹のごとく泡を吹くようなことはないようにしなければなりませんね。
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