令和4年1月15日に発生したトンガ沖での海底火山の大噴火は、日本にも津波が押し寄せるなど広範囲に被害が及び、改めて噴火の恐ろしさを感じた方も多かったと思われます。1日も早いトンガの復興を祈るばかりですが、最近、富士山の噴火にも注目が集まっています。今回は、江戸時代に発生した富士山大噴火に着目してみたいと思います。

富士山は噴火するのか

各種報道などによると、富士山噴火の可能性は相当程度高まっているようです。令和3年3月には、政府が「富士山ハザードマップ」を改訂し、そこでは、想定される溶岩噴出量を従来の約2倍に見直すほか、溶岩流達成の可能性のある市町村も2倍以上に広げるなど、被害範囲が再検証されています。

また、鎌田浩毅京都大学名誉教授は、「現在、300年マグマをためている。前回の1.5倍。富士山は“噴火スタンバイ状態”」にあると指摘します。東日本大震災の4日後、平成23年3月15日に静岡県富士宮市で起こった震度6強の地震は、近年、噴火の引き金となりかねなかった地震ともいわれているようです(テレビ朝日ネットニュース令和3年12月30日配信)。

富士山が噴火すれば、降灰は関東都心にも及び、交通網の遮断、電波障害、停電など、首都機能をマヒさせるといわれており、正に未曾有の大災害となってしまうことでしょう。

宝永大噴火と諸国高役金

さて、直近の富士山の噴火は、江戸時代中期の1707年(宝永4年)に起きた、いわゆる「宝永大噴火」です。記録に残る富士山の10回の噴火の中でも最大級だったといわれています。

宝永大噴火では、降灰が、武蔵・相模・駿河三国の田畑を埋め尽くし、その地域を治める藩だけでは対応ができないほどの被害をもたらしました。そこで、その灰を取り除く資金的手当てとして、幕府は宝永5年、全国に「諸国高役金令」を命じ、100石の土地から2両ずつを拠出させています。それによって全国から金49万両余の税金が集まりました(三浦一郎「富士山の噴火と国役金」税大通信326号5頁(1993))。

この諸国高役金が徳川幕府にとって初めて、全国民に対して課した「租税」であり、日本最初の国税といってもよいでしょう(もっとも、「租税」という言葉自体は、明治の王政復古思想の下で使われた用語であって、江戸時代当時に使われていた言葉ではありません。明治時代以降、年貢米は「租税米」、年貢金は「租税金」と呼ばれるようになります(国税庁HP「税金の時代」〔令和4年1月1日訪問〕)。)。

なお、全国から拠出された諸国高役金ですが、実際に災害復興に充てられたのは16万両であり、残りのうち24万両は江戸城の北の御所の造営費に充てられたといわれています。もし、現代において、災害復興名目で集められた租税の半分以上が、それとは全く別個の出費に当てられていたとすれば大問題になりそうですが、当時においても、例えば新井白石が、このような課税には世間の批判があったと述べていたといわれています(内閣府「災害教訓の継承に関する専門調査会報告書〔平成18年3月〕1707 富士山宝永噴火」100頁)。

終わりに

さて、2回に続けて富士山関係のコラムをご紹介してきましたが、新型コロナウイルスの影響で閉鎖されていた富士山登山道も再開されています。まだまだ登山者数が以前のように戻っているわけではなさそうですが、新型コロナウイルスさえ終息すれば、太平洋(田子の浦)の海抜0mから、富士山の頂上、剣ケ峰(3776m)までを登山するといういわゆる「ゼロ富士」に挑戦する人もまた増えてくることでしょう。私もこれに成功しましたが、富士山を全身で体感したい方にはお勧めのチャレンジです。


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