5.解説
裁決書には、「本件元代表者が本件法人グループの従業員等から『オーナー』と呼ばれている」、さらに、原処分庁提出資料によれば、「本件元代表者が本件法人グループ間の資金移動などの様々な指示ともとれるような連絡をしていたことなどからすると、本件元代表者が請求人を含む本件法人グループ全体のいわゆる実質的なオーナーとして振る舞っていたことがうかがわれる」との記述がある。また、「金融機関の担当者の中には、本件法人グループの融資等に係る実質的な決定をしていたのは本件元代表者であった旨申述する者もいる」とも述べており、昭和36年創業の同族会社である請求人及び本件法人グループの規模・沿革、本件金員の金額の大きさ等を考え併せると、本件元代表者が、本件辞任後もいわゆる『院政』を布いていたのではないか、と考えるのもあながち誤りではない様にも思われる。仮に、原処分庁が入手した会議資料等において、本件元代表者の関与を示す決定的証拠があれば、全部取消しという本件の結論は全く異なったものとなった可能性も否定できない。
原処分庁は、Vによる本件申述を重視し、その主張に至ったものと推察されるが、4.(2)のとおり、Vと請求人及び本件法人グループは係争中であることから、審判所は、その申述内容の信用性に疑問を呈したものと思われる。敢えて原処分庁側の敗因を求めるとすれば、本件申述に依拠し過ぎてしまったことにあるといえるのではないか。
金子宏教授は、「租税法は侵害規範であるから、刑事法の領域で、犯罪構成要件事実の認定について、『疑わしきは被告人の利益に』という原則が妥当するのと同様に、課税要件事実の認定については『疑わしきは納税者の利益に』という原則が妥当する」[3]と述べられる。本件は、決定的証拠の欠如から、審判所が、『疑わしきは納税者の利益に』という考え方に至る判断をしたものと解される。
なお、審判所は、「本件元代表者が本件辞任の約5か月前に海外に住所を移転しており、本件辞任に至った経緯が不自然であるともいえないことからすれば、本件元代表者が、本件辞任後も継続して、請求人の事業運営上の重要事項に参画するみなし役員に該当し、請求人を実質的に退職していなかったと認めることはできない」と認定しているが、裁決書には、本件元代表者が海外滞在時にはスカイプにより経営会議等に参加したとの具体的な記述があり、みなし役員に該当しないとする論拠としてはやや弱いと思われる。
[3] 金子『租税法(第21版)』(弘文堂)140頁
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