5.解説

(1)推計課税の適法要件

推計課税が認められるためには、原処分庁のした推計にその必要性があり、かつ、当該推計の方法に合理性があることの2点が適法要件とされている[2]

①推計の必要性

申告納税制度を採用する所得税法は実額課税が原則であるが、納税者が税務調査に際し帳簿書類等の提出を拒むなどの場合には、実額課税が極めて困難となるものの、租税負担の公平の見地から、課税庁が課税を放棄することは許されないため、所得税法156条《推計課税による更正又は決定》の規定が設けられている。すなわち、推計課税は、帳簿書類などの直接資料が得られず実額によって課税することが困難な場合に初めて税務署長に許容されるものであり、これが推計の必要性の問題である。過去の裁判例[3]では、推計の必要性が認められる場合として、(i)納税者が帳簿書類等の備付けをしていない場合、(ii)備付けがあってもその記載が不備、不正確であるため、帳簿書類の信用性を欠く場合、(iii)納税者が税務調査に際し帳簿書類等の提示を拒む場合など、税務署長において納税者の所得を実額で補足することができず、推計によらざるを得ない場合に限って許容される、とされている。

②推計の合理性

推計課税は実額課税に代えてやむを得ず行われるものであるから、その推計の方法は、真実の所得に近似した数値を算出し得る合理的なものでなくてはならないとされる。これが推計の合理性の問題であり、推計の必要性と共に推計課税の適法要件とされている。したがって、推計が合理的であるというためには、(i)推計の基礎事実が正確に把握されていること、(ii)種々の推計方法のうち、当該具体的事案に最適なものが選択されていること、(iii)具体的な推計方法自体、できる限り真実の所得に近似した数値が算出され得るような客観的なものであることが必要である[4]、とされている。

(2)本裁決について

本裁決では、推計の2つの適用要件該当性について簡潔に述べ、一応の合理性があるとして適切な結論に導いたものと評価できる。なお、本件において、請求人は、事業所得の金額を推計の方法により算定することについて争わず、また、審判所に対し、各年分の事業所得の金額を実額計算の方法により算定するに足る帳簿書類等の資料を提出しなかったことから、審判所においても推計の方法により各年分の事業所得の金額を算定せざるを得なかったものと解される。


[2] 金子宏『租税法(第21版)』(弘文堂)1001~1002頁は、推計課税の立証責任について、「推計課税の場合には推計の必要性(略)が認められ、かつ、租税行政庁の側が推計の合理性(略)を立証すれば、推計額が真実の課税標準額および税額と異なることは、納税者の側で反証を挙げて立証しなければならない(実額反証)、と解すべきである。」と述べる。

[3] 大阪高裁昭和51年6月30日判決等

[4] 東京地裁平成20年11月14日判決等


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