5.解説
- (1)請求人の行為と同視できるかについて
最高裁平成18年4月20日判決[2]は、国税通則法68条≪重加算税≫の適用要件である隠ぺい又は仮装による過少申告の主体について、納税者本人[3]以外の第三者(従業員等を含む)の行為についても、それが「納税者本人の行為と同視することができる」場合には、重加算税が賦課され得ると判示し、それ以後の裁判例では、経理部長の行為の事例[4]や、代表権のない取締役の行為の事例[5]で、納税者本人と同視できると判示したものがある。上記3(1)の原処分庁の主張はかかる判断に準じたものと思われる。
この点につき審判所は、Gの肩書及びその変遷(本件取引当時は管理課長から管理部長へ昇格)にかかわらず、その実質を重視したものと思われる。すなわち、Gの役職の変遷は、昇給に伴う形式的なものであり、本件取引に係る各事業年度を通じ、担当業務の内容及び権限に変更はなく、Gは、商品の仕入れに係る発注、商品の仕入れ及び販売についての販売管理ソフトへの入力、仕入れた商品の倉庫における管理、発送する商品の運送業者への引渡し及び本社店舗における来訪者対応業務を担当していたに過ぎず、請求人には、(G以外に)経理事務を担当する従業員がおり、帳簿書類への記入、決算資料の作成及び仕入代金その他の支出の支払事務は、当該経理担当従業員が行い、これらの事務[6]にGが関与することはなかったため、上記4(1)の判断を示したものといえる。
審判所はさらに、上記判断から、原処分庁による重加算税の賦課決定を取り消すとともに、青色申告の承認の取消事由があるとは認められないとして、同処分は違法であって取り消すべきであるとした。
- (2)損害賠償金の計上時期について
法人が従業員等の不法行為によって損害を被った場合、当該法人には損失が発生する一方、当該従業員等に対する損害賠償請求権を得ることになるため、法人の課税所得の計算において、当該損失と損害賠償請求権の計上時期、及び損害賠償請求権に係る貸倒損失の計上時期が問題となり得る(貸倒損失については、本件の争点3で争われている)。貸倒れの問題は措くとして、損失と損害賠償請求権の計上時期については、これまで①同時両建説と②異時両建説の2つの判例・学説上の対立[7]があった。①は不法行為による損失が発生した場合に損失の計上(損金算入)を認め、同時に損害賠償請求権の発生を認識して収益に計上(益金算入する)考え方であるのに対し、②は損害賠償請求権の発生を①のように損失の発生と同時と捉えるのではなく、損害賠償額についての同意、判決の確定や和解といった客観的な指標から同請求権が確定したと認定できる時期に計上するという考え方であり、両説の判断は拮抗している[8]。この点につき、審判所は、不法行為による損害賠償請求権は、通常、損失が発生した時には損害賠償請求権も発生及び確定しているから、これらを同時に損金と益金とに計上するのが原則であるとする立場を採用している。
(3)損害賠償金の額について
審判所は、損害賠償請求金額について、特に理由を付すことなく、その窃取された商品の時価により計算すべきであるとしている。これについては、損害賠償という性質上、請求人の主張のように商品の取得価額とする考え方も成り立つと思われるが、審判所が、「インターネットオークションにおける取引では、本件のように通常市販されている商品については、同オークション以外の方法で取得する場合より安価な支出で取得することを期待して入札がなされるのが通例であると考えられるから、本件の落札代金の額は、落札者がその商品を一般の販売業者を通じて購入するときの購入額を上回らないものと認められる。さらに、本件取引は第三者との間で入札の仕組みにより価額が形成されることも踏まえると、落札代金は、その商品の落札時点における時価の範囲に含まれる額であると認められる」と判断していることから、損害賠償請求金額をGが請求人から窃取した商品の時価と請求人に負担させた送料の合計額とすることには、一定の合理性があると思われる。
[2] 最高裁平成18年4月25日判決も同趣旨。
[3] 法人の場合、直接的にはその代表者の行為が納税者本人の行為となる。
[4] 東京高裁平成21年2月18日判決
[5] 広島地裁平成25年3月27日判決(及びその控訴審である広島高裁平成26年1月29日判決)
[6] 仮にGが、帳簿書類への記入、決算資料の作成等の業務を行っていた場合には、判断が異なる可能性もあり得よう。
[7] 代表的なものとして、日本美装事件では、第1審(東京地裁平成20年2月15日判決)が②異時両建説、控訴審(東京高裁平成21年2月18日判決)が①同時両建説を採用したが、上告審(最高裁平成21年7月10日決定)では、上告棄却・上告不受理とされている。
[8] 宮本十至子『損害賠償請求権の益金計上時期』(租税判例百選第7版・有斐閣)137頁
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