年の瀬が近づき、年末調整の時期になりました。かつては決まりきった流れに沿って確認と計算をしていけばいいだけでした。しかし、度重なる税制改正で一変、令和元年分から複雑になりました。「去年うっかりミスしそうになった」、そんな方もいるのではないでしょうか。これから数回にわたり、年末調整を行う側の注意点を解説します。

■ポイント1:「38万円→48万円」で条件と控除を間違えやすい

もっとも混乱しやすいのは「控除対象となる条件の金額と控除額が違う」という点かもしれません。この背景には、「基礎控除額の改正」があります。

従来、基礎控除の額は所得額に関係なく一律38万円でした。しかし、昨年分から合計所得金額に応じ、段階的に控除額が変動するようになりました。

これに伴い、各種控除の所得要件も変わりました。配偶者控除や扶養控除では、扶養している配偶者や親族の所得要件も求められます。この要件となる所得額は38万円から48万円に引き上げられました。しかし、控除額そのものには変更はなく、38万円のままです。

この他、旧来の寡婦(寡夫)控除が廃止され、「ひとり親控除」が令和2年分から始まりました。こちらも「扶養する子どもの所得は48万円以下」という要件を設けています。けれども、控除額は35万円です。

まとめると、次のようになります。

「以前は所得要件も控除額も同じ38万円だったが、今はちがう」という点に注意しなくてはなりません。

■ポイント2:配偶者控除・配偶者特別控除の条件が異常に細かい

年末調整で特に悩ましいのが「配偶者控除」「配偶者特別控除」です。以前に比べ、かなりわかりにくくなりました。

●かつて「配偶者控除」「配偶者特別控除」は非常にシンプルだった

「給与年収103万円以下なら38万円の配偶者控除が受けられる」____。こう記憶している人は非常に多いでしょう。「103万円の壁」とよく言われますが、この数字は「配偶者控除38万円+給与所得控除65万円=103万円」という計算に基づいているのです。そして、この分かりやすい基準を元に、多くのパート主婦たちは毎年、年末の出勤日数を調整しています。

また、仮に配偶者の給与年収が103万円を超えても、納税者側での38万円控除は可能でした。配偶者の給与年収が141万円以下なら配偶者特別控除の対象となるからです。意外と知られていませんでしたが、夫側が合計所得金額1千万円以下でありさえすれば、38万円の所得控除はどうにか受けられたのです。

このように、改正以前の配偶者控除・配偶者特別控除はわりとシンプルでしたが、平成29年の税制改正で一気に難しくなりました。

●令和2年分以降はココに注意

「税制改正で変わった」と言っても、パート・バイト主婦の目安には影響ありません。基礎控除の10万円引き上げと給与所得控除の10万円引き下げの結果、「103万円の壁」という指標は変わらなかったのです。

けれど、これ以外の要件が令和2年分以降、かなり細かくなっています。ポイントを押さえないとうっかり間違えるかもしれません。

【配偶者控除】

配偶者控除は、今や「配偶者自身の合計所得金額が48万円以下(給与収入だけなら103万円以下)でいい」というものではありません。納税者自身の合計所得金額が1千万円以下であることも求められています。

さらに、1千万円以下であっても丸々38万円を所得額から差し引けるとは限りません。納税者自身の所得額が900万円を超えると、段階的に控除額が下がるのです。

【配偶者特別控除】

配偶者特別控除はもっと大変です。次の表をご覧ください。

【引用元】No.1195 配偶者特別控除(国税庁)から引用・加工して作成

「納税者の合計所得金額」「配偶者の合計所得金額」の両方で控除額を探さないといけません。「年齢に関係なく所得だけで控除額が決まる」という点はシンプルですが、それ以外は複雑です。

●「主婦(夫)の稼ぎ」はパート・バイトとは限らない

今は「配偶者控除」「配偶者特別控除」が受けられるかどうかの判断は難しくなっています。働き方が多様化したからです。

以前、配偶者の稼ぎといえば、「バイトやパートの収入」つまり給与収入がほぼすべてでした。「103万円」といった額面金額で判断すれば十分だったのです。

しかし最近は、クラウドサービスの普及やコロナ禍の影響で、わざわざ外に働きに行かなくても、家で稼げます。「在宅でアクセサリーを作って販売する」「記事やデザインを作成して有料で提供する」でも十分なのです。

このように独り立ちして稼いだときの収入は給与所得ではありません。「事業所得」「雑所得」のいずれかになります。そして、給与所得以外の収入のある配偶者が控除対象になるかどうかは、額面金額で判断できません。次の式で計算した所得額が基準となります。

総収入金額には売上の他、給付金や補助金といった雑収入も入ります。必要経費は在宅ワークなどに直接かかった費用です。この計算の結果、48万円以下なら配偶者控除が、133万円以下なら所得額に応じた配偶者特別控除が受けられることになります。

ただ、これは一例に過ぎません。FXや株で稼いでいることもあるでしょう。また、在宅ワークが複数あるかもしれません。このように、複数の所得があるならそれぞれの所得にわけて所得額を計算し、その上で合計した所得額で控除できるかどうかを確認します。

つまり、正しく判断するなら、所得区分や所得額をすべて正確に押さえなくてはならないのです。

●海外に住む配偶者なら別途添付書類が必要

家庭によっては「妻が留学で海外に住んでいる」「娘の留学に同伴して外国に住んでいる」ということもあるでしょう。このようなケースでは、単に年末調整書類に記載するだけでは足りず、送金証明などの書類を別途添付する必要があります。

次回以降、こういった「海外に扶養する家族が住んでいるときの条件」を含め、他の控除について解説します。


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